アナログシンセの VCO ブロック (32) -- 温度補償回路(2)

ゲインが絶対温度に比例する温度補償回路と、ベース結合アンチログ回路とを、同一の NPN トランジスタ・アレイ・チップ上の NPN トランジスタで構成した回路案を下に示します。
入力側はオーソドックスに OP アンプを使って CV 入力の加算をし、温度補償回路の出力電流は PNP のカレントミラーで折り返してベース結合アンチログ回路に入力するという、あまり芸のない回路となっています。

点線で囲った部分の NPN トランジスタが同じトランジスタ・アレイ・チップ上のもので、秋葉原で容易に入手可能なものとして TD62507 を想定していますが、もちろん CA3046 などでも OK です。
正負両電源方式でも、単一電源方式でも実現できます。
図の「A_COM」は正負両電源方式ではグラウンド、単一電源では GND と VCC の中間の電位として生成した「アナログコモン」電位を表しています。
この回路では、基準となる温度 (T0) での熱電圧 (V_{\small T0}) に相当する電圧を Q1/Q2 の差動ペアのベース間の電位差として与えます。
図では Q1 のベースに「27mV」と記してあるのがそれです。
図のように Q1 側に与える場合はアナログコモン電圧に対して正の値、Q2 側に与える場合は、(Q1 のベースはアナログコモン電圧に落とし) Q2 のベース電圧はアナログコモン電圧に対して負の値とします。
後の記事の理論的な解析で述べるように、この電圧の設定がアンプとしてのゲインに与える影響は大きく、素子感度としては e = 2.71828 \cdots つまり約 3 となりますから、電圧が 0.1 % 変動すれば、約 0.3 % のゲイン変化として現れます。
そんなわけで、図のようにトリマで電圧を調整可能にするために安定性が損なわれるのであれば、固定抵抗で実現するほうが望ましいです。
温度設定に対する素子感度は 1 なので、固定抵抗の精度が ±1 % とすると、たとえば設定の目標値 27 ℃ (300 K) に対して、24 ℃ (297 K) から 30 ℃ (303 K) の範囲でズレる程度で、あまり問題にはなりません。
単一電源方式でアナログコモン電圧を作り出すのに、電源電圧を抵抗で分圧してバッファする方式なら、設定電圧は正側でも負側でも精度に差はありません。
一方、ローカル・レギュレータを使用してアナログコモン電圧を作り出す方式では、設定電圧をローカルレギュレータのある側にした方が安定性がよくなります。
具体的には、たとえば、単一 5 V 電源方式で、シャント・レギュレータの TL431 を利用して GND に対して2.5 V を作り出してアナログコモン電圧としている場合には、Q2 のベースにアナログコモン電圧に対し -27 mV を与えるようにします。
PNP カレントミラーの Q5、Q6 については温度差が生じないように、熱的な結合を良くするように配慮します。
エミッタに挿入してある抵抗 R での電圧降下が、電流の多い領域 (30 μA 程度) で数百 mV 程度になるように R の値を選べば、Q5 と Q6 との特性の差はあまり問題になりません。
アンチログ回路部は、回路が簡単になることを優先して書いてあり、実際の回路では精度を向上させるために、もうちょっと複雑な回路が必要になります。
理論的な解析は次回以降の記事に回します。