OTA/VCA/PGA を使用した 2 次特性 VCF (5)

今回は biquad/状態変数型 2 次 VCF の「発振」についてです。
(普通の) OP アンプを使った (反転入力型) 状態変数型 2 次フィルタの回路を下に示します。
「反転入力型」というのは、フィルタ入力と LPF 出力との間が「逆相」になる回路方式であることを示しており、BPF 出力とフィルタ入力の間との関係で見れば「正相」になります。


「帰還」によって発振させるためには、一般的には、

  • 回路内に周波数選択性の要素を持ち、
  • そのピーク周波数での位相ずれが 0°、
  • (開ループでの) ゲインが 1 以上

という条件があげられます。
(反転入力型) 状態変数回路では、入力と BPF 出力との位相差は 0° となりますから、BPF のピーク周波数でのゲインが 1 以上になる設定をした上で、フィルタ入力に BPF 出力をフィードバックしてやれば良いことになります。
その状態の回路を下に示します。

オープンループ・ゲインが 1 以上であれば発振を開始し、オープンループゲインが厳密に 1 であれば一定の振幅の発振を維持しますが、固定の回路要素では実現が困難です。
したがって、実際には回路内に可変の要素を組み込み、出力振幅を検出してフィードバック制御を掛けるようにします。
状態変数型 BPF としての設計では、ピーク周波数でのゲイン HBP = 1 とするのはもちろんですが、Q についても何らかの値を選ぶ必要があります。
しかし、この BPF としての Q の選択には、あまり意味がないことを説明します。
説明の都合上、先の「反転入力型」ではなく、「非反転入力型」の回路を下に示します。

「非反転入力型」回路を示したのは、発振のために外部回路が必要になりますが、回路定数を表す式が簡単になるためです。
まず、上のフィルタ回路でカットオフ角周波数 ω0 と Q を表す式を示します。
\qquad\qquad \left( \omega_0\right) ^2 = \frac{1}{\,C_1 \cdot R_1 \cdot C_2 \cdot R_2 \.}\.\cdot\,\frac{\, R_3 \,}{R_5}
\qquad\qquad Q = \frac{1\, +\, \large\frac{R_6 (R_4\,+\,R_7)}{R_4 \,\cdot\, R_7}}{1\,+\,\large\frac{R_3^{\,}}{R_5}} \, \cdot \, \sqrt{\frac{R_3}{R_5}}\, \cdot \, \sqrt{\frac{C_1 \cdot R_1}{C_2 \cdot R_2}}
\qquad\qquad H_{\small\rm BP} = \frac{R_6}{R_4}
ちょっと面倒な式となっていますが、R1、R2 の値だけで ω0 を可変することを前提にすれば、R3、R5 の値は固定値に選ぶことになります。
さらに R3 = R5 = R という同じ値に選べば、R3 / R5 = 1 となり、式が簡略化できます。
ついでに、C1・R1 = C2・R2 と置きます。
また、発振条件から BPF のピーク周波数でのゲイン HBP = 1 と選びますから、R6 = R4 となります。
これで、Q の式に表れる回路定数の中で、値が決まらないのは R7 のみとなりましたから、Q の式を R7 について解くことができます。
\qquad\qquad Q = \frac{1\, +\, \large\frac{R (R\,+\,R_7)}{R \,\cdot\, R_7}}{1\,+\,\large\frac{R^{\,}}{R}} \, \cdot \, \sqrt{\frac{R}{R}}\, \cdot \, \sqrt{\frac{C_1 \cdot R_1}{C_1 \cdot R_1}} \,=\, \frac{2\cdot R_7 \, +\, R}{2\cdot R_7}
 \qquad\qquad R_7 \,=\, \frac{R}{2\cdot (Q - 1)}
これで、カットオフ周波数は R1、R2 で調整可能、Q は R7 で独立に調整可能になりました。
この回路を発振回路として構成する場合の回路を下に示します。

「非反転入力型」では、LPF 出力は非反転 (正相) ですが、BPF 出力に関しては反転 (逆相) になるので、外部回路の反転増幅器 (ゲイン -1 倍) を介して BPF 出力から入力へフィードバックします。
この回路を良く見ると、BPF 出力は、ひとつは R6 を介して A3 の非反転入力へ、もうひとつは外部の反転増幅回路を介して (-1) 倍され、R4 を介して同じ A3 の非反転入力へ結ばれています。
HBP = 1 の条件から R4 = R6 と選びましたから、 A3 の非反転入力へは同じ値の抵抗を介して「正相」の信号と「逆相」の信号が同時に加えられていることになります。
つまり、正のフィードバックと、負のフィードバックが互いに打ち消しあって、トータルではフィードバック量は「ゼロ」ということになります。
不完全積分器 (1 次 LPF) を構成する A1 へのローカルフィードバックが「ゼロ」ということは、Q として見れば「無限大」ということになります。
これはもとの BPF の Q を決定する R7 の値には無関係です。
つまり、もとの BPF として比較的に低い Q を設定してフィードバックを掛けて発振させたつもりでも、実際には振幅安定化回路が作用して一定の振幅の発振波が得られている状態では、実質的には非常に高い Q で動作していることになります。
これは、電圧制御要素 2 個でカットオフ周波数とレゾナンスを可変する方式では、連続的にレゾナンスを変化させていって発振にまで到るような動作は難しいことを示しています。
「発振はしないけれどレゾナンス可変」のモードと、「発振」モードを設け、どちらかに切り換えて使用するようなイメージになると思います。
発振モードでは、Q の電圧可変機能は、主に振幅安定化に利用することになるでしょう。
後で示す、正帰還による 2 次 VCF (Bach トポロジー) では、ループゲインを「過剰」にしておくことで、電圧制御要素 2 個の構成でも比較的容易に発振させることができます。
OTA を使った biquad 型の 2 次特性 VCF である「ARP 4023 VCF」について houshu さんが blog 記事を書いておられます。(→こちら)
ARP 4023 VCF の回路では OP アンプを使った積分器になっていますが、下の回路図では OTA 出力電流でコンデンサを直接に積分する形で書いてあります。
基本的には前に述べた「最も簡単な構成」になっており、OTA を 2 個使ってカットオフ周波数を電圧制御し、レゾナンスについては電圧制御ではなくボリウムにより手動で設定する方式です。

1 次 LPF を構成する A1 側の OTA に、「α」の正帰還 (固定量) と、符号を含めて「-(β+α)」の負帰還 (レゾナンスで可変) を掛け、トータルで
α - (β + α) = -β
の負帰還として仕上がるようになっています。
負帰還側のフィードバック量が -α となった場合にトータルでは α - α = 0 となり、Q が無限大となって発振します。
正帰還のループは、OTA A1 の非反転入力で前段の信号と加算していますが、これは下の図のように C2 のグラウンド側、つまり BPF 入力へ接続しても等価となります。

この見方では、今回説明した biquad / 状態変数型フィルタを BPF として使い、フィードバックして発振させるのと同じことになります。
ただし、OP アンプで積分回路を構成している ARP 4023 VCF では、コンデンサの一端から信号を入力するのはやりにくく、バッファアンプも必要となりますから、OTA の入力側でミックスしています。
ARP 4023 VCF の負帰還側の回路を下に示します。

このうち、

  • 8.2 kΩ と 470 Ω による LPF 出力の分圧回路
  • ダイオード・クリッパ回路
  • OTA 入力の分圧抵抗 100 Ω

だけが VCF ボードに実装されており、100 kΩ と 12 kΩ は「レゾナンス」の 100 kΩ ボリウムの場所に実装されています。
ボリウムの「ワイパ」を「グラウンド側」に回すとレゾナンスが上がり、「ホット側」に回すとレゾナンスが下がります。
ダイオードの両端の電位差がダイオードの順方向電圧 VF = 0.6 V 程度以下では、ダイオードにはほとんど電流は流れず、「オープン」と見なせるので、その他の回路素子で決まる動作となります。
ダイオードの両端の電位差が約 0.6 V を超えるとダイオードに電流が流れはじめ、他の回路により決まる電流よりも多くの電流が OTA 入力の分圧抵抗に流れることになり、負帰還量が上がって Q が下がり、振幅を減らす方向に作用します。