4 次 VCF CEM3320/V3320 (9) --- 4 次 LPF (1)

 CEM3320/V3320 のデータシートに掲載されている 4 次 LPF の回路を下に示します。 (図をクリックすると拡大します。)

V3320_LPF4_small.png

 青色の破線で囲まれているのがチップ内部の部分で、赤色の四角の中の数字はピン番号を表しています。 負電源の 13 番ピンまわりの RE、RT などの回路は省略しています。
 8 番、9 番ピンが負帰還量を変化させて「レゾナンス」量を調節するためのトランスコンダクタンス・アンプ部です。
 8 番ピンが信号入力で、「電圧入力」になっています。 内部で 3.6 kΩ の抵抗でグラウンドに対して終端されており、AC カットした信号を加えます。
 外部に抵抗を接続して内蔵の 3.6 kΩ との間で分圧し、入力レベルを適正に保ちます。 上の回路図では 51 kΩ を使用しています。
 9 番ピンはトランスコンダクタンス・アンプのゲインをコントロールする端子で、電流入力になっています。 上の回路では 100 kΩ を接続しているので、「RES CV」に +15 V を加えた場合に 9 番ピンには 150 μA 程度の電流が流れます。 コントロール電流とトランスコンダクタンスとの関係は CEM3320 のデータシートにグラフが掲載されています。
 トランスコンダクタンス・アンプは電流出力となっており、ステージ 1、つまり 1 番目のゲインセルの入力に接続されています。 これは固定で、変更はできません。 もしトランスコンダクタンス・アンプを使わない場合にはステージ 1 の動作に悪影響が出ないように適切に設定する必要があります。

 「信号」に関して表現したブロック・ダイアグラムを下に示します。


 入力信号のラプラス変換を「X(s)」、出力信号のラプラス変換を「Y(s)」とします。
 ゲインセル 1 段で実現した 1 次 LPF の伝達関数を、正規化角周波数 (normalized angular frequency) を使って表現した場合、カットオフ角周波数は「1 [rad/s]」ですから、
\qquad\qquad -\frac{1}{s + 1}
となります。 マイナス符号が付いているのは、LPF 構成ではゲインセル出力は反転するためです。
 これをステージ 1 から 4 まで縦続接続した場合のトータルの伝達関数を「G(s)」とすると、G(s) は
\qquad\qquad G(s) = \frac{1}{(s + 1)^4}
となります。 偶数段の縦続接続なので、マイナス同志が消し合ってマイナス符号が消えています。
 フィードバック部のゲインを「-A」とします。 フィードバックの「合流点」が「加算」で表現されているので、「負帰還」であるためにはゲインの数値に「マイナス」符号が必要です。
 フィードバック部を含む全体の伝達関数「F(s)」は、
\qquad\qquad F(s) = \frac{Y(s)}{X(s)} = \frac{G(s)}{1 + A \cdot G(s)} = \frac{1}{(1/G(s)) + A} = \frac{1}{(s + 1)^4 + A}
となります。
 この式から、フィードバック・ゲイン A = 3.8 = 4 × 0.95 として振幅特性を求めると、

となります。
 1 次 LPF 4 段のカットオフ角周波数でのゲインは 1/4 (-12 dB) ですから、フィードバック・ゲイン A = 4 以上に選べばカットオフ角周波数付近での一巡のループ・ゲインが 1 以上となり、発振を開始します。
 つまり、発振開始のフィードバック・ゲイン「4」を基準とすると、 A = 3.8 = 4 × 0.95 の設定は、発振開始レベルの 95 % までフィードバック・ゲインを上げたことに相当します。