PIN フォトダイオードによるガンマ線検出回路 (5)
今回は、ピーク・ホールド/トラック回路の説明をします。
回路図を下に再掲します。 この回路をブレッド・ボード上に組んで実験しています。
回路図の上部で、OP アンプが 3 段縦続になっているのがピーク・ホールド/トラッキング部で、1 段目と 3 段目はゲイン 1 の単なるボルテージ・バッファです。
回路図の下部がコンパレータと 555 タイマ IC によるモノ・マルチ回路で、パルスの立ち上がり部分を検出して、約 100 μs 幅のゲート・パルスを作りだしています。
1 段目のバッファの前で 47 kΩ と 33 kΩ の抵抗による分圧を行って、5 V 単一電源でクリップしないようなレベルに落としています。
回路図には OP アンプの型名を書いてありませんが、実際には AD8616 と NJM8202 を使っています。
1 段目と 3 段目のボルテージ・バッファには、それほど性能は要求されないはずですが、ブレッド・ボード上で実験しているせいか、LMV358 では発振が生じたので、前記の手持ちの 2 種の OP アンプを使っています。
また、1 段目のバッファでは、半固定抵抗で DC バイアスを調整して、ダイナミック・レンジを最大限取れるようにしています。
回路図下部のコンパレータで、パルス波形の立ち上がり部分を検出しています。
スピードが要求されるので、汎用 OP アンプをコンパレータの代用にするのは適当ではなく、コンパレータ IC の TLC372 を使用しています。
これは CMOS タイプですが、バイポーラの LM393 でも構いません。 TLC372 を使用したのは、単に手持ちの都合です。
また、
- ヒステリシスを正帰還で実現する
- モノ・マルチ構成の 555 では負極性のトリガ・パルスが必要
という条件のため、コンパレータのリファレンス電圧は非反転入力側にかけ、反転入力端子に入力電圧をかけています。
555 タイマ IC によるモノ・マルチ回路は、標準的な構成で、約 100 μs 幅のパルスを作り出しています。
回路図上部の 2 段目の OP アンプが、ピーク・ホールド / トラック回路を構成しています。
OP アンプ出力に NPN トランジスタのベースが接続されており、エミッタにはコンデンサが接続され、OP アンプの反転入力へフィードバックされています。
また、同時に 555 タイマ IC の 3 番ピン出力からダイオードを経由して抵抗がエミッタに接続されています。
モノ・マルチが作動していない、つまり 3 番ピン出力が「L」レベルの場合には、ダイオードは順方向となり、トランジスタのエミッタ抵抗はグラウンド側と導通することになり、コンデンサが余計ですが、普通にエミッタ・フォロアとして動作することになります。
OP アンプの反転入力側に 100 % の負帰還がかかっているので、トランジスタのエミッタには、(コンデンサをチャージする電流が足りている限り) 入力電圧がそのまま出力されることになります。
つまり、この場合は入力に「トラッキング」する状態になります。
モノ・マルチが作動している、つまり 3 番ピン出力が「H」レベルの場合には、ダイオードは逆方向バイアスとなり、カットオフして、トランジスタのエミッタにはコンデンサのみが接続されているのと同じになります。
この状態では、入力電圧が上昇する方向では、トランジスタは正常動作をして、エミッタに接続されたコンデンサにチャージしていきますが、入力電圧が下降する場面では、トランジスタのベース・エミッタ間の電位差が減少して、トランジスタがカットオフする方向になります。
つまり、入力電圧のピークまでは出力は追随しますが、入力電圧がピークから下降するところでは、追随せず、ピークでの電圧を保持する、つまり「ピーク・ホールド」機能となります。
実際には、トランジスタのカットオフは瞬時には行われず、ベース・エミッタ間のストレー容量などにより、エミッタに接続したコンデンサからチャージが引き抜かれる現象があり、ピークよりわずかに下がった電圧レベルでホールドされます。
コンデンサ容量を大きくしていくと、相対的にストレー容量の影響が少なくなり、電圧レベルの減少も少なくなりますが、大きくし過ぎると、今度はピークに達する過程でコンデンサにチャージしきれなくなって、立ち上がりに追随できなくなってきます。
回路図のコンデンサの容量 332 (3300 pF) は、波形を見ながら実験的に求めたものです。
ピーク・ホールド回路の波形写真を下に示します。
一番下の波形が、555 タイマ IC の 3 番ピン出力で、約 100 μs 幅のピーク・ホールド / トラック切り替えパルスです。
2 現象オシロで観測しているため、この波形はメモリに格納しておいたものを見ており、リアルタイムの波形ではありません。
中央の波形が 1 段目のバッファ出力で、パルス波形入力そのものです。
一番上の波形が 3 段目のバッファ出力で、ピーク・ホールドされたパルス波形です。
約 100 μs のピーク・ホールド期間が終わると、トランジスタのエミッタに接続されたコンデンサにホールドされているチャージはエミッタ抵抗により放電されていき、エクスポネンシャル・カーブを描いて入力電圧に収束していきます。
下の波形写真は、ピーク・ホールド回路の入出力を重ねて表示させたものです。
トラック期間およびパルスの立ち上がり部分は、出力が入力に追随しており、入力のピーク位置からは、ピーク電圧をホールドしていることが分かります。
ピーク・ホールド出力を PC のサウンド入力に加え、48 kHz サンプリングした wave ファイルを波形編集ソフトで表示したものを次に示します。
緑色の「点」が各サンプルの値で、緑色の「線」は波形編集ソフトがサンプル間の値を補間して表示しているものです。
前のオシロの波形写真では、ピーク・ホールドされている部分は「直線」になっていましたが、サンプリングされた結果は、細かく上下に震動するような形になっています。
これは、元のピーク・ホールド波形は帯域制限されておらず、ナイキスト周波数 24 kHz 以上の成分も含まれているのに対し、サウンド入力では、24 kHz 以上の周波数成分はディジタル・フィルタで除去されているため、いわゆる「ギブズ (Gibbs) の現象」が起きているためです。
ピーク・ホールド幅を約 100 μs としたため、48 kHz サンプリングでは 5 〜 6 点が含まれることになります。
ピーク・ホールド幅を、より広くとれば、より多くのサンプル点を含むことになりますが、今度は、直流カットが原因の「サグ」により、直線であるべきピーク・ホールド値が「ダラ下がり」するのが目立つようになります。
そのため、ピーク・ホールド幅に確実にサンプル点が数点含まれ、同時にサグも目立たない 100 μs 程度に選びました。
最後に、トリウム・レンズを測定した、広い時間範囲での wave ファイル波形を示します。
これで約 5 分間の範囲を表示しています。
上下の青い横線が、フルスケール -1 dB のレベルを示しており、5 分間の間にフルスケールに近いパルスが 3 発とらえられていることが分かります。