PIN フォトダイオードによるガンマ線検出回路 (8)

現在、実験中の回路を下に示します。
これは、 9 月 10 日の記事の当初の回路に、次のような変更を加えたものです。

  1. 初段チャージアンプの帰還抵抗を 20 MΩ に
  2. アナログ・コモン電圧を発生させる分圧回路のコンデンサの容量を増強
  3. OP アンプ段間の直流阻止用のコンデンサの容量を増強
  4. フィルタ部の OP アンプの入力抵抗、帰還抵抗の値をそれぞれ 10 倍に
  5. LPF の時定数を 1 μs から 47 μs に
  6. テストパルス入力の追加


この 1. 〜 5. までは、フィルタの時定数を大きくして、パルスの応答を「遅く」するための変更です。
6. のテストパルスとは、初段のチャージ・アンプ部に、コンデンサを介して外部から電圧パルスを加え、電荷を注入するものです。
簡易型のテストパルス発生回路を下に示します。

555 による定番の回路で、数 Hz から、0.1 Hz 程度の範囲の矩形波パルスを発生し、CMOS アナログ・マルチプレクサ 74HC4053 により、立ち上がりは急速で、エクスポネンシャルに減衰するパルスを作りだしています。
チャージアンプ部で必要になる電圧レベルは低いので、発生回路部では特に OP アンプ等でバッファはせずに、単に抵抗で分圧して出力います。
手持ちの同軸ケーブルはビデオ用の 75 Ω がほとんどなので、チャージアンプ部とのインターフェースのインピーダンスは約 75 Ω としています。
チャージアンプ部では、手持ちの抵抗の都合で、22 Ω と 51 Ω の抵抗を使って分圧しています。 そのため、インピーダンスは 73 Ω となっています。
また、単純な分圧なので、高い周波数では、インピーダンス・マッチングが取れていない状態になります。
単純に 75 Ω で終端して受けても良いのですが、その場合、パルス入力端子と OP アンプの入力ピンが、コンデンサひとつだけを介して接続されることになり、実用上は問題なくても、心理的に不安になるので、たとえ 22 Ω と値は小さくても抵抗が挿入される形を選びました。
テストパルス発生回路では、矩形波タイミング・パルスの半周期で 1 μF のコンデンサにピーク・レベルとなる電圧をチャージしておき、残りの半周期で抵抗分圧出力回路に接続して、エクスポネンシャルで減衰する出力波形を得ます。
実際のタイミング・パルスの最も速いレートが約 7 Hz となっているので、この期間で十分減衰するように、減衰の時定数は約 7 ms に選んであります。
出力波形をオシロで観測した写真を下に示します。 時間軸は 2.5 ms / div です。

下のトレースがテストパルス出力で、HC4053 12 番ピンと 6.8 kΩ 抵抗の接続点の電圧を見ています。 ピーク電圧は約 3 V に調節してあります。
上のトレースがフォトダイオード・アンプ部の出力です。
PD パルス出力は、立ち下がったあと、いったんマイナス方向に振れてからベースラインに徐々に復帰する振る舞いを見せていますが、これはテストパルスの影響です。
テストパルスの立ち上がり部分で電荷がチャージアンプに注入されますが、エクスポネンシャルに減衰している部分では、逆にチャージアンプ部から電荷をわずかながら「引き抜く」形になるためです。
実際にフォトダイオードガンマ線光子が入射した場合のパルスでは、マイナスへの振れは、もっと少ないです。
下に時間軸を 100 μs / div として、PD パルス出力を見やすくした波形を示します。

PD パルスの立ち上がりは 100 μs 程度、ベースラインへの復帰は、テストパルスの影響を除くと 300 〜 400 μs の程度になっています。
「ノイズ」がなくて、きれいな波形になっていますが、これは、繰り返すテストパルス波形の立ち上がりでトリガをかけ、ディジタル・オシロの「アベレージング機能」を使って平均化しているためです。
この方法で、ノイズの影響を軽減して、PD アンプ部の純粋な応答を観察することができます。
また、テストパルスのピーク・レベルを変化させると、チャージ・アンプに注入する電荷の量も変化させることができるので、種々のエネルギーを持つガンマ線光子をシミュレートするものとして使えます。
分圧前のテストパルスのピークが 3 V の場合を例にとると、まず、テストパルス発生器の分圧部の 75 Ω と、チャージ・アンプ部の入力インピーダンスの 73 Ω が並列になるので、そのインピーダンス
1/(1/73 + 1/75) = 37 [Ω]
となります。
アナログ・スイッチの ON 抵抗を無視すると、6.8 kΩ の抵抗との間で分圧されるので、テストパルス発生器の出力端およびチャージ・アンプ部の入力端で、パルスのピーク電圧は、
3 [V] * 37 / (6800 + 37) = 16.24 [mV]
となります。
これがまた、22 Ω と 51 Ω とで分圧されるので、3 pF のコンデンサは、ピークで
16.24 [mV] * 51 / (22 + 51) = 11.3 [mV]
までチャージされることになります。
したがって注入される電荷の量は、
11.3 [mV] * 3 [pF] = 34.0 [fC]
となり、電子1個当たりの電荷 1.602e-19 [C] で割って電子の個数に変換すると、
34.0e-15 [C] / 1.602e-19 [C] = 212e3 [個]
と求められます。
これを、入射したガンマ線光子のエネルギーがすべて電子・正孔対の発生に使われた場合に当てはめると、ガンマ線のエネルギー 3.62 eV 当たり一対発生しますから、
3.62 [eV] * 212e3 [個] = 769 [keV]
のエネルギーを持つガンマ線光子が全て吸収された場合に発生する電荷量に相当します。
PD アンプ部の応答速度をかなり遅くしたので、48 kHz サンプリングのサウンド入力でもピークを十分捉えることができるようになり、ピークホールド回路なしで PD パルス出力をサウンド入力にダイレクトに接続しています。
PD パルスを 48 kHz サンプリングで「録音」した .wav ファイルを波形編集ソフトで表示させたものを下に示します。

緑色の「点」が実際にサンプリングされた値で、緑色の「線」が波形編集ソフトがサンプリング点間を「補間」して表示しているものです。
PD パルスのピーク付近にサンプリング・ポイントが2箇所存在していることが分かります。