BBD コーラス (15) -- 逆数特性の VCO (10)

6 月 3 日付けの CMOS タイマ IC LMC555 を使った逆数特性の VCO の回路図を下に再掲し、回路動作の説明をします。
ワンショット回路は、555 タイマ IC 自体の本来の使用法により実現し、555 には存在しない定電流源と電流スイッチ部分を外付けの PNP トランジスタにより実現しています。
このリワインド電流の方向を逆にした、NPN トランジスタを使った別バージョンの回路もありますが、微妙な違いがありますから、それについては後で示します。

ワンショット回路としては、データシートの応用回路と同じ構成で、2 番ピンの TRIG 端子の電圧が 1/3 VDD を下回るとトリガが掛かってワンショット動作を行います。
つまり、Vin = Vbot は 1/3 VDD に固定ということになります。
555 のワンショット回路は「レシオメトリック」動作なので、理想的には出力パルス幅は電源電圧に依存しませんが、リニア VCO としての入力電圧 Vin は電源電圧の変動の影響をモロに受けることになります。
リワインド電流を流す定電流回路と、電流スイッチ回路は 555 にはありませんから、外部に回路を設ける必要があります。
ここでは、PNP トランジスタをひとつだけ使って、定電流回路と電流スイッチを兼用しています。
この電流スイッチの機能は、トランジスタのベース・エミッタ間を逆バイアスにすることにより実現していますので、トランジスタの耐圧 VEBO に注意する必要があります。
通常の汎用小信号用トランジスタ (2SA1015、2SC1815 など) の VEBO (の絶対値) は、スペック上は 5 V 程度で、実力値は 8 〜 9 V 程度なので、電源電圧 9 V とか 12 V とかの回路に使用すると、素子の破壊を招く恐れがあります。
電源電圧 3.3 V や 5 V ならば問題ありません。
もし高い電源電圧で使いたい場合には、 VEBO の大きい「ミューティング用トランジスタ」 (2SC2878 など) を使う方法もあります。
NPN トランジスタですが、2SC2878 の VEBO は 25 V あります。
下にソース方向の定電流回路の例を示します。

左側が OP アンプを使った典型的な例で、OP アンプの作用により、入力電圧の「コピー」を PNP トランジスタのエミッタ負荷抵抗の両端に発生させます。
エミッタ電流の値は Vin / Rs となり、トランジスタのベース電流を無視すれば、この電流がコレクタ側から流れ出すことになります。
右側が、ここで使っている回路で、構成上はベース接地回路として、コレクタ側から電流を取り出しているものです。
エミッタ負荷抵抗には、Vin - VBE の電圧が掛かります。
VBE の値はエミッタ電流および温度に依存するので、直線性は良くありません。
電流スイッチの機能の実現のために回路を追加しないで、トランジスタのベース・エミッタ間を逆バイアスにすることによりカットオフさせています。
そのためには、ベース側の電圧を振るのでも、エミッタ側の電圧を振るのでも構いませんが、制御電圧の入力インピーダンスを高く保つため、ベース側に制御電圧を入力し、エミッタ側を振ることにしました。
エミッタ負荷抵抗を 3 番ピンのパルス出力に接続し、ワンショット期間の VDD レベルになっている間だけトランジスタのベース・エミッタ間が順方向バイアスとなるようにしていて、ワンショット期間以外の GND レベルの期間は逆方向バイアスが掛かります。
3 番ピンのパルス出力から電流を取り出しすぎると、電圧降下が生じ、誤差の原因になります。
NPN トランジスタを使った、電流の向きが逆のバージョンの回路を下に示します。

この回路では、ワンショットの時定数回路の RC は 2 番ピンの TRIG 端子側に接続され、7 番ピンの DISCHARGE 端子は (信号論理が合わないので) 時定数回路には接続されず開放のままです。
そのため、ワンショット期間が終了してから、コンデンサのチャージが抜け、再びワンショット・パルスを発生させる準備ができるまでに、ワンショット期間に等しい時間が必要になります。
具体的には、Trew / Tcyc で「デューティー」を定義すると、50 % 以下になる場合にしか正常に動作しません。
最初に示した PNP バージョンでは、デューティーが 50 % を上回っても動作可能です。
その一方で、オープンドレインの DISCHARGE 端子が自由になるので、これを利用して電源電圧の異なるロジック回路へパルス出力することができます。