TM7705N を使ったトランジスタ特性の測定 (4)

前回までの測定で、同一 IC に対する VBE (の絶対値) がトランジスタの品種により違いがあることが分かりました。
そこで、NPN / PNP トランジスタの品種の組み合わせ方により、Arp 方式のアンチログ回路を単一電源動作させた場合の特性を改善する試みを行いました。
まず、Arp 方式のアンチログ回路での問題点を下の図を使って説明します。

簡単のため、初段のエミッタ・フォロア (Q1) のエミッタには抵抗を接続するのではなく、定電流源から 1 μA が供給されるものとします。
また、 2 段目のトランジスタ (Q2) の hFE はコレクタ電流により変化せず、一定値の 200 を保つものとします。
単一電源で動作させ、初段のエミッタ・フォロアのベース電位の最低は GND レベルとし、マイナス電位にはしないものとします。
いま、Q1 と Q2 は同一 IC に対する VBE (の絶対値) が等しい特性を持つものとします。
そこで図 (a) のように Q1 のベース電位を GND レベルとすると、当然 Q2 のコレクタ電流は最小値となり、その値は、1 μA となります。
なぜなら、Q1 のベースは 0 V、Q2 のエミッタも 0 V なので、|VBE1| = |VBE2| となります。
Q2 のベース電流を無視すると、IC-VBE 特性の仮定より |IC1| = |IC2| = 1 μA が導けます。
実際、hFE2 = 200 では、コレクタ電流 1 μA に対してベース電流は
1 [μA] / 200 = 5 [nA]
ですから無視できます。
VB1 を上げていくと、Q2 のコレクタ電流は増加しますが、それにつれてベース電流も増加します。
定電流源の 1 μA を Q1 のエミッタ電流と Q2 のベース電流とで分け合う形になっていますから、どこかで、Q2 のベース電流 = 1 μA に達して Q1 のエミッタ電流がゼロになる点に到達します。
それが上の図 (b) の状態です。
そこがアンチログ回路の出力電流最大の点となり、Q1 は完全にカットオフとなるので、VB1 をそれ以上に上げても出力電流は増加しません。
その最大コレクタ電流は、

IB2_MAX × hFE2 = 1 [μA] × 200 = 200 [μA]

となり、出力電流レンジを 1 μA 〜 1 mA とすることを狙っていても、200 μA で飽和してしまいます。
最大出力電流を 1 mA までに届かせるには、Q2 のベース電流を

IC2_MAX / hFE2 = 1 [mA] / 200 = 5 [μA]

供給してやる必要があります。
したがって、定電流源の設定値を 5 μA 以上にしなければなりません。
しかし、その状態では出力電流最小値の 1 μA の場合に
|VBE1| > |VBE2|
となり、Q1 のベース電位をグラウンド電位以下、つまりマイナス電圧とする必要があり、単一電源の制約にひっかかります。

ここで、同一 IC に対して
|VBE1| < |VBE2|
となるトランジスタを選んで組み合わせれば、Q1 のエミッタ電流を 1 μA より多く流すことができます。
前回までの測定結果から、左の図のように NPN + PNP のシンク出力電流タイプでは、2SA1049-GR と 2N3906 とを組み合わせれば、Q1 のエミッタ電流は約 10 μA 流すことができます。
同様に、PNP + NPN のソース出力電流タイプでは、2SC3113-B + 2N3904 の組み合わせで、Q1 のエミッタ電流を約 20 μA 流すことができます。
それぞれのタイプの測定結果を下に示します。
2SC3113-B + 2N3904 の組み合わせの方が Q1 のエミッタ電流を多く流せる分、大電流領域でのリニアリティの悪化が少なくなっています。
PNP + NPN タイプの CV については、実際の CV が電源レイル (+3.3 V) にある場合にグラフの表示上では CV = 0 V として扱い、実際の CV が GND レイル (0 V) にある場合に表示上では CV = 3.3 V としています。


PNP + NPN タイプについて「セント」単位で誤差を表示したグラフを下に示します。

CV が小さい領域で誤差が大きくなっているのは、IC の検出電圧が数 mV のレベルで、データ処理上で OP アンプのオフセット除去が十分に行えていないための誤差で、実際の特性ではありません。
その影響を避けるため、CV の値で 1 V 〜 2 V 程度の範囲のデータを使って理想変換特性としての回帰直線を求め誤差をプロットしています。
CV の大きい領域で誤差が大きくなっているのは実際の特性です。
直線性が良いのは約 7 オクターブ、 CV の表現では 0 〜 2 V 程度の領域になります。