PIN フォトダイオードによるガンマ線検出回路 (4)

PC のサウンド・インターフェースを利用して、MCA (Multi Channel Analyzer) の機能を実現するフリー・ソフトウェア

Pulse Recorder and Analyser - PRA

を使って、ガンマ線のスペクトルを求める実験をしています。 が、あまり良好な結果は得られていません。
PRA は Windows XP 以降の Windows 上で動作します。
オーディオ入力は wave mapper で選択したもの、つまり、システムのデフォルトの入力として選んだものを無条件で使うようになっており、98 kHz などのサンプリング周波数を選ぶことができません。
デフォルトの 48 kHz サンプリングでは細いパルスのピークをうまく捉えられないので、下の回路図に示すようなピーク・ホールド/トラック回路をを使って、パルスのピーク値をホールドするようにしました。

回路の説明や、波形の写真は次回に回します。
MCA (Multi Channel Analyzer) とは、簡単に言うと、検出したパルスの波高を AD 変換し、そのディジタル値のヒストグラムを計算する装置を設けたものです。
検出器内部でガンマ線が全てのエネルギーを失い、その全てのエネルギーが電子・正孔対に変換されたと仮定すると、出力パルスの波高は、ガンマ線が持っていたエネルギーに比例することになります。
したがって、パルス波高を AD 変換して求まったディジタル値もガンマ線のエネルギーに比例することになります。
検出器では、ガンマ線の光子ひとつひとつを分解して検出しますから、パルス 1 個は光子ひとつに対応します。
したがって、AD 変換後のディジタル値に着目し、各ディジタル値の出現頻度をカウントする、つまり、ヒストグラムを作成すれば、あるディジタル値に対応するエネルギーを持つガンマ線光子の数をカウントすることになります。
具体的には、たとえば AD 変換を 12 ビットで行うとすれば、212 = 4096 要素の配列を用意し、そこにヒストグラムを集積していきます。
そして、測定が終了した時点で、ヒストグラムの値の大きいところは検出された光子の個数が多い、つまり、強度が大きいということが分かります。
ヒストグラムの配列のインデクスを横軸に取り、縦軸にその配列要素の値、つまり、ヒストグラムのカウント値を取ってグラフを描けば、横軸がガンマ線光子のエネルギーに比例する値で、縦軸がそのスペクトル強度に対応する値のグラフが得られることになります。
「トリウム・レンズ」を使って、約 4 時間測定した結果の「パルス高ヒストグラム」を下に示します。

横軸の「a.u.」というのは、arbitrary unit、つまり「任意単位」の略で、100 がフルスケール入力に対応しています。
「校正」、つまり、AD 変換後のディジタル値とガンマ線エネルギーの比例係数を求める作業が済んでいれば、横軸をエネルギーの値で目盛ることができますが、現在は校正されていないので、単に任意単位で表示しています。
横軸の 5 から 15 付近のピークは、ノイズおよび低いエネルギーのガンマ線によるものです。
任意単位の 15 程度以上の部分でピーク・ホールドが作用するようにしてあります。
分解能が悪く、どこがピークとも言えない状態です。
任意単位 20 程度でもカウント数は 100 に満たないですから、標準偏差としてはその平方根の 10 程度となり、10 や 20 程度のカウント数の差はランダムな変動による誤差と有意差があるとは言えません。
下に、商品名「やさしお」(180 グラム入り) を (パッケージのまま) 丸一日、24 時間かけて測定した結果の波高ヒストグラムを示します。

「やさしお」には 100 グラムあたりカリウムが 27.6 グラム含まれており、180 グラムではカリウムが約 50 グラム含まれていることになります。
カリウム-40 の存在比率は 0.0117 % と言われているので、50 x 0.00117 = 5.8 [mg] のカリウム-40 が存在していることになります。
グラフの横軸 54 任意単位付近にピークが見られますが、これが K-40 のガンマ線 (約 1.4 Mev) なのかどうかは現在のところ分かりません。
任意単位 54 の位置でのカウント数は 5、最大値となる任意単位 20 付近でもカウント数 10 程度ですから、はっきりしたことは言えません。
24 時間の測定終了後、遮光のための箱を開けて確認すると、「やさしお」がセンサから遠い位置にずれていました。
いつの時点からずれていたのかは分かりませんが、この結果は、本来得られるはずの値より小さくなっている可能性があります。
センサ周辺に何も置かない、バックグラウンドの測定結果と、「やさしお」の測定結果に差があれば、それば K-40 のスペクトルであると考えられますから、バックグラウンド測定および「やさしお」のやり直しの測定をしようと思っています。