MS-20 タイプの VCF (1)

今回から VCO をちょっと離れて、VCF それもいわゆる「MS-20 前期型」の VCF について寄り道します。
それは、高 hFE トランジスタを調べている過程で、「ミューティング用トランジスタ」の存在を知り、それが MS20 タイプの VCF で可変抵抗として使うトランジスタとして適しているのではないかと思ったためです。
さらに、複数の古い DVD/CD-ROM ドライブの基板に、数個の表面実装型のミューティング用トランジスタが実装されているのを発見し、それらを取り外して (部品を買いに行かなくても) 実験できるようになったこともあります。
まず、ミューティング用トランジスタには、次のような特徴があります。

  • reverse hFE が大きい
  • 飽和電圧が低い
  • ON 抵抗が低い
  • VEBO (エミッタ・ベース間逆バイアスでの耐圧) が高い

「reverse hFE」とは、逆向き、つまり、コレクタとエミッタを通常と逆に接続して動作させた場合の hFE の値です。
ミューティングへの応用では、別に逆方向に接続して増幅させるわけではありませんが、特性を良くするためには reverse hFE が大きいことが必要になります。
たとえば、東芝の 2SC2878 では、スペックの表の数値としてはありませんが、特長を列挙している文章のなかで reverse hFE の標準値が 150 であることをうたっています。
高い reverse hFE を追求することは、当然、普通の hFE (forward hFE) も高くすることにつながるので、汎用のトランジスタより大きい forward hFE になる傾向があります。
たとえば、東芝の 2SC2878 では、「A」ランクでは hFE=200〜700、「B」ランクでは hFE=350〜1200 となっています。
「飽和電圧が低い」という特性は、飽和電圧は、たとえば IC/IB=10 というような条件のもとで測定されるので、もともとの hFE が高ければ低い場合に比べて、同一の条件でも、より強い飽和状態になり、結果として飽和電圧は低くなります。
「ON 抵抗が低い」という特性も、コレクタとエミッタの電位がほぼ等しい場合に、ベース電流に対してコレクタ (エミッタ) 電流をどれだけ流せるかと言う話なので、やはり hFE の大きさが効いてきます。
ミューティングへの応用としては、ON 抵抗が重要で、小さければ小さいほどミューティングの効きがよくなります。
MS-20 タイプの VCF への応用に関しては、Voltage Control で、この ON 抵抗を変化させて使うわけですから、ON 抵抗の大きさの絶対値よりも、抵抗変化の直線性の方が重要になります。
場合によっては、「ON 抵抗が低すぎる」ことが障害になるかも知れません。
「VEBO が高い」については、 hFE に直接の関係はありませんが、逆方向で動作させる場合には重要になります。
一般のトランジスタ回路では、回路動作上、ベース・エミッタ間が逆バイアスになる瞬間があったとしても、それは例外的で、通常は常にベース・エミッタ間は順バイアスで使うのが普通です。
したがって、小信号用汎用トランジスタではエミッタ・ベース間逆バイアスでの耐圧については重要視されていなくて、スペック上はVEBO = 5V 程度、実際の耐圧としては 8 〜 9 V 程度のものが多いようです。
東芝セミコンダクター社の製品では、NPN の「ミューティング用」のトランジスタとしては、次のような品種があります。

品番 パッケージ ピン間隔 備考 現品表示
2SC2878 TO-92
2SC3326 SC-59 0.95 mm CCA, CCB
2SC3327 Mini
2SC4213 SC-70 0.65 mm AA, AB
2SC5376CT SOT-883 0.35 mm 7J, 7K
HN1C03F SC-74 0.95 mm 2素子独立 C3A, C3B
HN1C03FU SC-88 0.65 mm 2素子独立 C3A, C3B

これらは 2SC5376CT を除き、中身は同じでパッケージだけが違うラインナップだと思われます。
表面実装タイプの「現品表示」の最後のアルファベットは hFE のランクの記号です。
古い DVD/CD-ROM ドライブの基板には、HN1C03F (現品表示「C3B」) と 2SC3326 (現品表示「CCB」) が実装されていました。
HN1C03F/HN1C03FU は 6 ピンのパッケージに 2 素子を独立で内蔵したものです。
ROHM の製品では、NPN のミューティング用トランジスタとしては、リード線タイプとして 2SD2705S、SC-59 パッケージの 2SD2704K などがあります。 他にもパッケージ違い、定格違いの品種がありますが、それらは省略します。
ROHM のトランジスタについては SPICE モデルが提供されているものがあり、Web サイトから登録不要でダウンロードすることができます。
次回は、この 2SD2704K の SPICE モデルを利用して LTspice によるシミュレーションを行います。
秋葉原などに店舗を持つ主要な販売店の Web サイトで調べた限りでは、

  • 2SC2878 (ランク不明) 単価 21 円 (サトー電気)
  • 2SC2878 (ランク B) 5 個 150 円 (鈴商)
  • 2SC3326 (ランク A) 10 個 210 円 (サトー電気)

が最安値のようです。
基板から外した HN1C03F が実験に使えるので、それで満足して、ルネサス (旧 日立、旧 三菱)、NECPanasonic などの製品については調べてありません。