V2164 の特性測定 (2)

インセルのテイル電流や、Vc 端子に接続されていないほうのトランジスタのベース電流は、チップ内部の量なので、当然、外部から直接測定することはできません。
テイル電流は前回の測定で求めた関係を使えば、30 μA のオフセットはあるものの、MODE 電流値から推測することができます。
唯一、外部から直接測定が可能なのが、VCA としてのゲインをコントロールする Vc 端子を流れる電流であり、これから内部のトランジスタのベース電流を推定することができます。
測定不可能な、Vc 端子につながっていない側のベース電流も推測できるように、ゲインセルの差動ペアのバランスを 50 % / 50 % にして両方のトランジスタのエミッタ電流、ベース電流を等しくして測定します。
そのために、測定の間、入力電流と Vc 電圧はゼロに保ちます。
下が測定の原理を示す回路です。

OP アンプによる電流-電圧変換回路、いわゆる I-V 回路により Vc 端子に接続されている 4.5 kΩ の抵抗を流れる電流を電圧に変換して測定します。
OP アンプのプラス入力端子はグラウンドに落とされているので、OP アンプの動作によりマイナス入力端子はバーチャル・ショートが強制され、マイナス入力端子の電位は 0 V に保たれて、Vc 入力電圧としては常にゼロになります。
インセル内のベース同士が接続されている部分を流れる電流を I_{\fs1\rm B} とします。 この接続を切り離すわけにはいかないので、トランジスタ2個分のベース電流を合わせたものが I_{\fs1\rm B} です。
本来、VCA のコントロール電圧 Vc は 4.5 kΩ と 500 Ω の抵抗で 1/10 に分圧されてトランジスタのベースに供給されていますが、Vc は 0 V に保たれているため、トランジスタ (2 個分) のベース電流 I_{\fs1\rm B} は 500 Ω と 4.5 kΩ の両方の抵抗を通じて流れ込みます。
その電流比は、

  • 500 Ω 側 --- \frac{9}{10} I_{\fs1\rm B}
  • 4.5 kΩ 側 --- \frac{1}{10} I_{\fs1\rm B}

となります。
つまり、外部から測定できる 4.5 kΩ 側の電流を測って 10 倍すれば、それが I_{\fs1\rm B} の推定値となります。
NPN トランジスタですから、ベース電流の向きは外部からチップ内部へ流れ込む方向 (シンク電流) であり、I-V 変換回路では 100 kΩ の抵抗を使っていますから、 Vc を流れる電流 1 μA に対して 100 mV が OP アンプから出力されます。
MODE 電流を変えながらこの電圧を測定すれば、MODE 電流に対する I_{\fs1\rm B} の関係が測定できることになります。
実際の測定結果を下に示します。 この結果は意外なものでした。

まず、グラフの縦軸はベース電流の推定値になっていますが、その値はマイナス、つまり、ベース電流が外部に流れ出す (ソース) 形となっています。
NPN トランジスタではベース電流はシンク側なので、トランジスタ単体だとすると、これは有り得ない結果です。
すなわち、何らかの補正回路が付加されていて、MODE 電流の少ない部分では過剰に補正されていてベース電流がマイナスになってしまっているが、 MODE 電流の多い部分では補正が合ってきて、ベース電流がゼロに近くなっていると解釈できます。
データシートには、R_{\fs1\rm BIAS} と、ひずみ率との関係を示すグラフが掲載されていて、±15 V 電源で R_{\fs1\rm BIAS} が数 kΩ の時に最もひずみ率が低くなっています。
その時の MODE 電流は 2 mA 程度ですから、上のグラフの I_{\fs1\rm B} がゼロに近くなる領域と、ほぼ一致しています。
内部回路でベース電流の補正が行われているのなら、ベース抵抗による特性の変化については心配する必要はなくなります。
MODE 電流が 2 mA 程度の場合に補正の精度がいいのなら、その設定で使うのが望ましいことになります。
今後の測定では、MODE 電流の設定による特性変化についても調べてみたいと思っています。
補正回路の存在は単なる推測に過ぎませんが、いろいろとググッていて、かなり確実な証拠を見つけました。 その話は次回以降に回します。