4 次 VCF CEM3320/V3320 (22) --- CV 漏れ補正 (1)

 CEM3320 / V3320 のマイナス電源側の回路は少し特殊な形となっていて、いわゆる「CV 漏れ」(CV feed through) 補正量の調整の機能も兼ねています。
 電源まわり (プラス電源ピン、グラウンド・ピン、マイナス電源ピン) の回路を下に示します。
 プラス電源ピンである 14 番ピンには、通常の IC と同様に低インピーダンスの定電圧電源を接続する仕様となっており、IC 内部では各所にプラス電源 (V+) として分配されて使用されています。

 マイナス電源ピンである 13 番ピンと外部のマイナス電源とは直接接続せず、電流制限抵抗を介して接続する仕様となっており、「定電圧」と言うより「定電流」的なふるまいとなります。
 左の回路図でツェナー・ダイオードのシンボルで表現されている部分は実際は 1.9 V の「シャント・レギュレータ」で、IC 内部の各部分には -1.9 V の負電源 (V-) として分配されています。
 シャント・レギュレータと 13 番ピンの間には公称 100 Ω の抵抗が挿入されており、13 番ピンから流れ出す電流値を変化させるとそれにともなって 13 番ピンの電位も変化します。
 IC 内部に分配されるマイナス電源 V- の電圧は 1.9 V シャント・レギュレータで安定化されるので、13 番ピンからのソース電流を変化させても内部の機能にはほとんど影響しません。
 V- と 13 番ピンは詳細回路が不明な CV 漏れ軽減バイアス発生回路に入力されており、公称では 13 番ピンから 8 mA 流すことになっています。
 CV 漏れを調整するには、最小 5 mA から最大 12 mA までの範囲で電流値を調整できるような外部回路にする必要があります。
 具体的には、電流制限抵抗 REE を固定抵抗 RE と可変抵抗 RT とに分割し、5 mA ~ 12 mA の可変範囲をカバーします。
 13 番ピンから流れ出す電流値をパラメタとし、CV 入力電圧と各ゲインセル・バッファ出力の DC 動作点電圧との関係の測定のために、下の図のように Arduino を利用して回路を組みました。


 DC-DC コンバータを利用して +5 V から ±12 V を作り、マイナス側は 3 端子レギュレータで -5 V を作り出しています。 実際の応用回路では +12 V / -5 V の構成にする予定なので、それに合わせて測定回路でも -12 V をそのまま使わず、いったん -5 V に落としています。
 CV 電圧は I2C 接続 12 ビット DA コンバータ MCP4726 (Microchip) で発生させています。 0 V から正側にしか振れないので、ゲインセル電流を絞る方向 (カットオフ周波数が低くなる方向) しか見ていません。
 V3320 のプラス電源として +12V を供給しているため、出力電圧の最大値は +12V 近くなる可能性があり、過電圧防止のため抵抗で分圧してから Arduino の AD 入力に加えています。
 まず、各ゲインセルの入出力が他のゲインセルとは DC 的に独立な場合を次に示します。 (図をクリックすると拡大します。)


V3320_cvthru4_small.png

 13 番ピンから流れ出す電流値の設定は一連の測定の前に電流計を見ながら手動で可変抵抗を調整して行い、測定中は設定は固定したままです。
 各ゲインセルの入力には、自分自身の出力からのフィードバックのみで、信号や他のゲインセル出力からの入力はありません。
 ただし、ステージ 1 のゲインセル入力にはレゾナンス・フィードバック・ゲインセル出力との接続が存在しており、外すことはできません。 それでも、なるべく影響が小さくなるように、レゾナンス・フィードバック・ゲインセルの信号入力はゼロ、ゲイン最小としています。
 13 番ピンの電流 (IEE) を最小の 5 mA に設定した場合の結果のグラフを下に示します。


 CV の大きいところ、つまり、ゲインセル電流を絞ったところで DC 動作点の電圧が大きく下がっています。
 ステージ 1 のバッファ出力 (BOUT1、赤色のトレース) がなるべくフラットになるように IEE を調整した場合のグラフを下に示します。


 グラフが「ギザギザ」しているのは DC-DC コンバータのノイズの影響です。
 BOUT1 のグラフはほぼフラットですが、他のゲインセルでは「曲がり」があり、全部のステージを同時に最適にはできないことが分かります。
 13 番ピンの電流 (IEE) を 13 mA に設定した場合の結果のグラフを下に示します。


 電流が少ない場合とは逆に、CV が大きい領域で DC 動作点の電圧が上がっていることが分かります。