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 spice のバイポーラトランジスタ・モデルでアーリー (Early) 効果を取り込むためのモデル・パラメタとして「VAF」(順方向アーリー電圧) があります。 トランジスタの出力コンダクタンスは VAF によりほぼ決定されるので、回路に対する出力コンダクタンスの影響を見るには VAF の値をいじってシミュレーションを実行してみれば分かります。 VAF の値を 10 倍にすれば、出力コンダクタンスは約 1/10 になります。 (出力インピーダンスは約 10 倍)
 モデル・パラメタの一部を変更して実行するのに便利な機能が、文書化はされていませんが、LTspice には存在しています。
 「.model」カードには「ako」(A Kind Of) というキーワードがあり、最も簡単な形では、

  .model ROHM3904 ako:SST3904

とすると、LTspice 付属のライブラリ中の既存の「SST3904」モデル (Rohm 製の 2N3904 互換のチップ・トランジスタ) と同じ内容の新しいモデルが「ROHM3904」という名前で定義されます。
 この例では、単に「エイリアス」(別名) を定義するだけになりますが、もとのパラメタをオーバーライドしたり、設定していないパラメタを新たに設定することもできます。
 たとえば、

  .model ROHM3904 ako:SST3904 (VAF=1000)

とすれば、「SST3904」モデルのパラメタを受け継ぎつつ、「VAF」については値を「1000」にオーバーライドすることができます。 括弧「(」「)」はなくてもエラーにはなりませんが、付けておいたほうがオーバーライドするパラメタがはっきりします。
 さらに、「モデルタイプ」の指定もでき、

  .model ROHM3904 ako:SST3904 NPN(VAF=1000)

とも書けます。 もちろん、もとのモデルで使用されているモデルタイプ (NPN / PNP) と一致していなければなりません。 この表現では、普通の .model カードの書式に「ako:xxxx」という語句を挿入した形になっています。
 トランジスタの出力インピーダンス 10 倍版のシミュレーションのために、「v3320_gm10.sub」ファイルの中に、

.model 2N3904Z ako:2N3904 (VAF=1000)
.model 2N3906Z ako:2N3906 (VAF=1000)

の定義を追加しました。 サブサーキットについても、

.subckt V3320_GMZ IN PBIAS OUT GND_ BOUT FCIN VCC
*
* gain cell
*
 Q1 IN  IN     GND_ 0 2N3904Z
 Q2 OUT IN     FCIN 0 2N3904Z
 Q3 OUT PBIAS  VCC  0 2N3906Z
*
* unity gain voltage buffer
* 
 E_BUF BOUT GND_ OUT GND_ 1.0
.ends V3320_GMZ

のようにして、出力インピーダンス 10 倍版の回路を定義しました。
 電流 10 倍および出力インピーダンス 10 倍版の LTspice 記述を下に示します。


 AC 解析の結果の振幅特性のグラフを下に示します。

 各プロット・ペインは、上から順に、

  • ノッチ出力 (BOUT4 端子)
  • ハイパス出力 (BOUT1 端子)
  • バンドパス出力 (BOUT2 端子)
  • ローパス出力 (BOUT3 端子)

となっています。
 10 倍電流のおかげで HPF およびノッチ・フィルタの高域の落ち込みは少なくなっています。 また、10 倍出力インピーダンスにより BPF 出力の低域での張り付きは -38 dB 程度となり、10 倍 (20 dB) 程度改善されています。
 ノッチ・フィルタ出力では、ノッチ位置とピーク位置が少しズレていますが、「ノッチ」は見えています。