V2164 の特性測定 (1)

温度補償回路の実験の前に、SSM2164 のコンパチ品である coolaudio V2164 チップ自体の特性を測定してみることにしました。
差動ペアのベース入力抵抗が気になるので、外部からベース電流を測ってみましたが、意外な結果となりました。
それは後回しにして、まずは、MODE 端子に流し込むバイアス電流と、チップの消費電流の関係について調べて見ました。
SSM2164 のデータシートでは、MODE 端子に流し込むバイアス電流と、ゲインセルのテイル電流の大きさとの関係については、記述がありません。
その代わり、プラス電源と MODE 端子の間に接続する抵抗値 (R_{\fs1\rm BIAS) と電源電流の関係のグラフが掲載されています。
各ゲインセルの差動ペアのテイル電流は、MODE 端子の回路からカレントミラーによってコピーされたものが使われています。
データシートでは、MODE 端子をオープンにした場合にはゲインコアの電流は約 30 μA になると書いてあります。
この電流値が最小であり、スペックでは電源電流の標準値が 6 mA、最大値が 8 mA と規定されています。
このとき動作は AB 級、つまり小振幅の場合には A 級、大振幅の場合に B 級の動作となります。
また、データシートでは、+15 V 電源と MODE 端子の間に R_{\fs1\rm BIAS として 7.5 kΩ を接続した場合に R_{\fs1\rm BIAS を流れる電流は約 1.9 mA となり、このとき A 級動作になると書いてあります。
電源電流のグラフでは、R_{\fs1\rm BIAS が 1 kΩ となる部分まで描かれており、そこでは約 20 mA となっています。
R_{\fs1\rm BIAS} = 1 \, \rm k\Omega では MODE 電流は約 14 mA となり、これがそのまま4つのゲインセルにコピーされると、ゲインセルだけで約 48 mA の電流を流すことになってしまいます。
従って、MODE 電流をコピーする際に何分の1倍かに縮小されて、ゲインセルのテイル電流になることが分かります。
グラフからは読み取りにくいし、そもそも、14 mA も流してよいのかという疑問もありますので、実際のチップで測定を行いました。
測定回路は下の図のようになっています。

各 VCA はゲイン 0 dB、入出力ゼロでバイアス電流のみ流すように接続してあります。
MODE 電流は可変抵抗で変化させ、その時の MODE 電流と、プラス側の電源電流を電流計で読み取ります。
プラス電源側の電流を測っているのは、マイナス電源側には MODE 電流も流れ込んでしまうからです。

測定結果のグラフを下に示します。

MODE 端子オープン状態で電源電流は約 4.5 mA で、電源電圧が ±5 V と低いせいかも知れませんが、スペックより少なめでした。
このグラフの傾きをとったグラフを下に示します。

MODE 電流の小さい部分で変動が大きいのは、電源電流を測った電流計の分解能が 10 μA しかなく、電流の少ない部分で精度が悪くなるためです。
多少の誤差はありますが、大ざっぱに言えば、上のグラフは値が 0.5 の直線とみなすことができます。
つまり、 4 ch の VCA ゲインセルの電流の合計として MODE 電流の 0.5 倍がコピーされることになります。
4つのセルの合計で 0.5 = 1/2 ですから、ゲインセルひとつ当りでは、(1/2)*(1/4) = 1/8 となり、ゲインセルの2つの差動ペアのテイル電流は、それぞれ、 (1/8)*(1/2) = 1/16 となります。
差動ペアのベース電流測定は次回以降に回します。