4 次 VCF CEM3320/V3320 (1)

 現在、秋月電子では 4 次 VCF 用チップとして、CEM3320 のコンパチ品の coolaudio 製 V3320 と、SSM2044 のコンパチ品の coolaudio 製 V2044A とを取り扱っています。
 V3320 はゲインセルを 4 回路内蔵しており、外部回路の構成次第で 4 次 LPF / HPF / BPF / APF および 2 次状態変数回路のいずれかを実現することができます。 4 次 LPF を構成した場合の特性は Moog トランジスタ・ラダー回路の特性と同様になります。
 V2044A は Moog トランジスタ・ラダー回路と実質的に等価な構成で、したがって LPF 専用となりますが外部回路は単純になり、また、チップの価格も安くなっています。 (秋月で V3320 は単価 420 円、V2044A は単価 260 円)
 ここでは、V3320 実チップの測定と、単純化したモデルによる LTspice シミュレーションを行いたいと思います。
 以下、CEM3320 と V3320 とを特に区別せずに扱い、名称の文字数が少ない「V3320」の表現を主に用いることにします。
 V3320 では、2 次状態変数回路の場合を除き、4 次フィルタを実現する場合には各ゲインセルで構成した可変 1 次フィルタを 4 回路縦続接続し、負帰還をかけることにより目的の特性を得ています。
 ゲインセル部分をブロック・ダイアグラムで表現すると下のようになります。


 「⊿A」と記されている部分がゲインセル本体で、「FCIN」端子に入力された周波数 CV によりゲインがコントロールされます。 FCIN 入力ひとつで 4 個のゲインセル回路が同時にコントロールされます。
 「IN」端子は電流入力、「OUT」端子が電流出力となっており、OUT 端子にコンデンサを接続して「積分器」あるいは「1 次フィルタ」を構成します。
 「B」と記されている部分は高入力インピーダンスの電圧バッファで、バッファ出力の「BOUT」端子から電圧出力を取り出します。
 回路の動作点の設定および 1 次フィルタの実現のため、ゲインセル回路内でフィードバックをかける必要があり、その説明のための図を下に示します。


 「IN」端子は順方向バイアスされたダイオードで構成されており、電流入力 IIN は正負に振れることはできず、動作点 IREF の回りで常に正の値の範囲で変化する必要があります。 この「バイアス電流」を電圧出力「BOUT」からの抵抗 RF を介した電流のフィードバックでまかないます。
 BOUT 出力の電圧レンジはスペック上、VCC-3 V となっており、データシートによれば、出力の動作点を 0.46 VCC に選ぶのが最適となっています。 RF の標準値は、データシートによれば 100 kΩ となっており、選択の自由度がありません。
 ゲインセル回路を 1 次 LPF として構成する場合の回路を下に示します。


 抵抗 RC を介して信号を入力します。 全体のゲインは RC / RF に比例しますが、AC 的に見るとゲインセル回路の出力インピーダンス (公称 1 MΩ) が RF と並列に入る形となり、実質的な RF が変わってきます。
  RF = 100 kΩ の場合、( 100 kΩ // 1 MΩ) = 90.9 kΩ となるので、RC = 91 kΩ と選びます。
 この RC を介して入力される信号が前段のゲインセル出力で、動作点の DC が乗っている場合には、その影響を図で青い破線で囲んだ部分の 220 kΩ の抵抗 RB で負電源側に流し去る必要があります。
 VEE = -VCC の場合は RB は図の通り 220 kΩ ですが、負電源電圧の絶対値が正電源電圧と異なる場合には RB の値は変更する必要があります。
 コンデンサカップリングするなどして、入力信号の DC 成分がゼロの場合には RB は必要ありません。
 「OUT」端子には 300 pF のコンデンサを接続し、コンデンサのもう片方の端子はグラウンドに落とします。 FCIN = 0 V の場合、300 pF でカットオフ周波数は 10 kHz 程度になるようで、オーディオ帯域が目的なら大きく違う値は選べず、自由度がありません。