XR2206 (14)

相変わらず直線性の測定ですが、今度は別の方法を試してみることにしました。
とは言っても、下の回路図のように、何の変哲もない R-2R ラダー回路です。

この回路図は、本文の幅におさめるために、ラダーの中央部分を省略して書いてあります。 
全体をフルに書いた回路図は(こちら→)です。
回路図で「A.COM」と記してあるのは、「アナログ・コモン電圧」で、2電源方式では GND、単電源方式では電源電圧を分圧して作り出した電圧です。
「-Vee」は2電源方式ではマイナス電源、単電源方式では GND です。
右端の 2R の抵抗が OP アンプのマイナス入力に接続されており、アナログ・コモン電圧に接続されているプラス入力との間でバーチャル・ショートが成立します。
そして、アナログ・コモン電位であるマイナス入力端子から 2R の抵抗を通してラダーに流れ込む電流を、JFET を介して外部から引き込むように OP アンプが動作します。
12 接点のロータリースイッチを使って、11 個のタップの内のひとつを -Vee に落として電流値の選択をします。
アナログ・コモン電圧と -Vee との電位差を E とすると、タップ位置の 2R の抵抗を流れる電流は、(E/2R) となります。
タップ位置の右側の R の抵抗を流れる電流は、この右側部分全体の合成抵抗が 2R となることから、同じく (E/2R) となります。
したがって、右側の R の抵抗での電圧降下は
\qquad \qquad R \times (E/2R) = E/2
となって、結局、-Vee に落とされたタップのひとつ右のタップ位置のアナログ・コモンに対する電位差は E-E/2=E/2 となり、電位差が 1/2 になります。
この R-2R ラダーの原理で、ラダーを1段通過すると電位差は 1/2 となるので、右端の 2R の抵抗を流れる電流は途中のラダーの段数を n とすると
\qquad \qquad 2^{-n} \times E/2R
となります。
ロータリースイッチのポジションが 11 の場合が電流値が最大で、
\qquad \qquad  E = 1.024 \times 2.4  = 2.4576 \;[V]
\qquad \qquad 2R = 2.4 \; [\rm k\Omega]
とすると、
\qquad 2^0 \times E/2R = 1.024 \times 2.4 / (2.4 \times 10^3) = 1.024 \times 10^{-3} = 1.024 \; [ \rm mA]
ロータリースイッチのポジションが 1 の場合が電流値が最小で、
\qquad 2^{-10} \times E/2R = 2^{-10} \times 1.024 \times 2.4 / (2.4 \times 10^3) = 1 \times 10^{-6} = 1 \; [ \rm \mu A]
となります。
個別の抵抗を使った R-2R ラダー方式の DAC というと、ディジタル・オーディオ用途で Web 上にたくさんの製作例がありますが、それらから連想される抵抗の「選別」や「調整」は行わず、単に「測定」と「計算」のみで製作することにしました。
精度の良い測定をするためには、正確な電流値が必要ですから、R-2R ラダー1段を通過する場合の減衰比率は正確な値が必要です。
しかし、オーディオ用 DAC の場合と違い、その減衰比率が正確に 1/2 である必要はありません。 その値が正確である限り、 たとえば 1/1.9795 や、1/2.0135 でも構わないことになります。
したがって、各ラダーの R と 2R の抵抗値を揃えるために数多くの抵抗の中から「選別」したり「調整」したりする必要はなく、各ラダーの R と 2R の抵抗の値を「測定」して「記録」しておけば、実際の電流値はそれらの値から「計算」で求めても良いことになります。
さらには、回路シミュレータを利用すれば、実際の抵抗値を入れたネットワークを入力して、「計算」の部分はシミュレータに実行させることができます。
この構成では、R-2R ラダーの部分は「閉じて」いて、通常の DAC などのようにラダー部分にスイッチの要素を含んでおらず、ON 抵抗が問題になることはありません。
ラダーを外部から「引っ張る」という感じなので、たとえばロータリースイッチの ON 抵抗が 1 Ω 以下だとすると、抵抗 2R/3 = 800 Ω に対しては 0.1 % 程度以下の誤差にすぎないことになります。
この回路では、複数のタップを -Vee に落としても最も右にあるタップだけが有効となりますから、電流変化のステップを2倍 (1/2 倍) より細かくとることはできません。
下の回路図のように、抵抗に直接電圧をかけるのではなく定電流で引っ張る場合には、複数タップを複数の定電流源で引っ張れば、そのいずれもが出力に寄与します。

また、上の回路では、スイッチ部分の ON 抵抗は全く影響がなくなるので、アナログスイッチによる実現に有効です。
さらに簡単に、定電流源を抵抗1本に置き換えることもできます。 ただし、この場合はスイッチ部分の ON 抵抗の影響があります。
定電圧、定電流、抵抗方式のそれぞれでの実際の電流値は、たとえ R-2R ラダー部分が完全に同一でも微妙に違ってくるので、それぞれ計算/シミュレーションを別個に行う必要があります。