SSM2164 応用回路 (1) --- PTAT 電圧源

SSM2164 (V2164) の応用回路として、絶対温度に比例した電圧を出力する PTAT (Proportional To Absolute Temperature) 電圧源を作ってみました。
簡単に言ってしまえば、チップのジャンクション温度を測る温度計です。
このような応用には、 OVCE の「Element」である SSM2018 の方が適しているのですが、VCA 専用チップである SSM2164 でも実現できます。
PTAT 電圧源の原理は、以前の記事 (→こちら) で説明してあり、(一対の)差動ペアで実現する方法については (→こちら) の記事で説明してあります。

SSM2164 (V2164) と OP アンプ1個で実現する回路を下に示します。

(ソルダレス) ブレッドボード上の実験では、特に不安定にはならなかったので、入力に付加すべき位相補償回路 (500 Ω + 560 pF) は省略しました。
SSM2164 内部でのフィードバック接続により、入力電流 = 差動ペアの片側のコレクタ電流 (Ic2) となるように作用しますから、その値は、
\qquad \qquad I_{\fs1\rm C2} = (-V_{\fs1\rm REF})/100\;{\rm k\Omega}
となります。
OP アンプの作用により、SSM2164 の出力端子に接続された抵抗 R2 の端子の電圧はバーチャル・グラウンドとなり、R2 両端の電位差は (+Vref) に強制されます。
結局、出力電流 = 差動ペアのもう一方のコレクタ電流 (Ic1) は、
\qquad \qquad I_{\fs1\rm C1} = (+V_{\fs1\rm REF})/1\;{\rm M\Omega}
と表されます。
この2つの電流の比 (の絶対値) を取り、さらに、(+Vref) と (-Vref) は絶対値が等しく、符号だけが違うものとすると、
\qquad \qquad \left| \frac{I_{\fs1\rm C2}}{I_{\fs1\rm C1}} \right|= \frac{-(-V_{\fs1\rm REF})/100\;{\rm k\Omega}}{(+V_{\fs1\rm REF})/1\;{\rm M\Omega}}=\,\frac{1\;{\rm M\Omega}}{100\;{\rm k\Omega}}\,=\, 10
となり、前の記事で述べたように、この場合、絶対温度 300 K でのベース電位差は約 60 mV になります。
SSM2164 の内部でコントロール電圧 Vc は 1/10 されてベース間に与えられているので、Vc 端子で見れば約 0.6 V となるように OP アンプによるフィードバックがかかることになります。
PTAT 電圧源としては 300 K の時に 3.00 V が出力されると電圧計で絶対温度が直読できて都合がよいので、 Vc には OP アンプ出力を (Vc 入力のインピーダンス 5 kΩ を考慮した上で) 1/5 に分圧して与えています。
この回路は OP アンプ1個ですみますが、基準電圧が正負両側に必要であり、両方とも安定であるか、あるいは変動する場合はトラッキングが取れている必要があります。
基準電圧はひとつで、OP アンプによる反転増幅回路で反対側の基準電圧を作り出してもいいのですが、それでは次に示す OP アンプ2個の回路と比べてメリットがなくなってしまいます。
OP アンプを2個使う回路を下に示します。

「A1」の OP アンプは I-V 変換回路で、出力電流を電圧に変換した上で、A2 の OP アンプによりフィードバックをかけています。
SSM2018 では I-V 変換用の OP アンプは内蔵されていますから、こちらの方法で実現することになります。
この方法では基準電圧はひとつだけで、特に安定である必要はありません。 プラス側の電源レイルに接続することも考え、A1 の OP アンプが飽和しないように、R2 の抵抗値は約半分の 470 kΩ におさえ、A2 の加算回路で重み付けをしています。
下の式が成り立ち、OP アンプの動作に問題がないならば、各抵抗値は自由に選ぶことができます。 (10/3 追記:誤りを修正しました)
\qquad \qquad \frac{R_2 \cdot R_3}{R_1 \cdot R_4} = 10
実際に、この回路をブレッドボード上に組んでみましたが、計算とは違って、Vc 端子 (3 番ピン) の電圧が約 0.64 V となりました。
各抵抗に掛かっている電圧を測定してみて、電流比は 10:1 で間違いないことから、この誤差はチップ内部の Vc の分圧抵抗の誤差と考え、出力電圧が 3 V 程度になるように R6 を調整して合わせました。
室温約 28℃ で出力電圧を約 30 分間にわたり測定した結果のグラフを下に示します。
電圧 3.00 V が、おおよそ、300 K に相当します。 正確ではないので、電圧変化、つまり温度変化に注目してください。

電源オン後、約 10 分間放置したところで、ドライヤーの温風で 10 数度ほど暖め、その後、約 20 分間放置したものです。
最初に温度が上昇しているのは「自己加熱」によるものです。
SSM2164 のデータシートによると、16 ピン・プラスチック DIP のジャンクション・大気間の熱抵抗 \theta_{\fs1\rm JA} = 76\;[ \rm C^{\circ}/W ] なので、電源電圧 ±5 V、電源電流約 5 mA から、温度上昇分を計算すると、
\qquad \qquad (5 + 5) \times 5 \times 10^{-3} \times 76 \;=\; 3.8 \;[ \rm C^{\circ}]
となります。
電圧測定のサンプリング周期は約 0.7 秒であり、電源オンも AC のスイッチの操作で行っているので、電源投入直後の自己加熱のほとんどない状態の温度は測れていないのですが、測定できている部分で見ると約 3 ℃の上昇であり、熱抵抗を使った計算と大きくは違っていません。
電源電圧を ±15 V とすると、計算上は約 11 ℃ の自己加熱が生じることになります。