XR2206 (15)

5 月 24 日および 5 月 31 日付けの記事の中で、OP アンプに TLC272 を使った回路に対して述べた、

  • 変動が少なくなった
  • 積分器出力が OP アンプの飽和電圧まで到達せず、途中の電圧値で止まる

現象は、TLC272 の裸のゲインが (このような応用に対しては) 小さいためであることが分かりました。
R-2R ラダーを使った回路でも、最小電流の 1 μA に対しては、2.4 kΩ の抵抗の両端に 2.4 mV の電位差をかけて 1 μA の電流を流す形となるので、相変わらず OP アンプのオフセット電圧との闘いは避けられません。
そこで、オフセット調整端子のないデュアルタイプの OP アンプにオフセット調整回路を付けて積分回路を構成し、その積分入力をアナログコモン電圧に落とした、下のような回路でテストをしています。

この回路の定数では、オフセット電圧の調整範囲は ±1 mV 程度です。
VR に多回転タイプの半固定抵抗を使った場合でも、なかなか、オフセットをぴったりとゼロには合わせられません。
OP アンプに LMC662 および LT1112 を使った場合には、出力電圧は残ったオフセット電圧の極性によって、結局は Vcc 側か GND 側の最大出力電圧まで振り切れます。
しかし、OP アンプに TLC272 を使った場合には、オフセット電圧の残りぐあいによっては、出力電圧が飽和せず、正常動作範囲の電圧で落ち着きます。
TLC272 のデータシートを調べてみると、裸のゲイン (Large-signal differential voltage amplification) が Vdd = 5V、25 ℃ の標準値で 23 [V/mV] と比較的小さいことが分かりました。
ちなみに同様な条件で LMC662 では 500 [V/mV]、LT1112 では電源電圧 ±15 V での値ですが 800 [V/mV] となっています。
上の図の回路で TLC272 の DC ゲインを実測してみると、出力電圧を 1 V 変化させるのに、VRのスライダ端子での電圧を 104 mV 変化させる必要がありました。
OP アンプのプラス入力端子での電圧変化の量に換算すると約 43 μV となり、ゲインは約 23000、つまり 23 [V/mV] でデータシートの値と一致しました。
前の記事で、漏れ電流などによる寄生抵抗分によりゲインが実質的に下がっていたのではないかと書きましたが、実際のところは、TLC272 の場合は本当にゲインが低いのが原因であると判明しました。