MS-20 タイプの VCF (3)
次の 3 種類のデバイス
- 2SC1815-GR
- 2SC3113-B
- HN1C03F
について、特性を測定してみました。
測定は手動で行ったので、IB を細かく変えて多数測定するわけにはいかず、IB=1μA での測定 3 回と、2SC1815 の場合だけ IB=50μA での測定の、合計 4 回の測定を行いました。
結論から先に言えば、「ミューティング用トランジスタ」の特性は、汎用のトランジスタの特性とは明らかに違っていました。
下に測定回路を示します。
左の 2 kΩ のボリウムを調整して 220 Ω の抵抗の部分に ±200 mV 程度の範囲の電圧を発生させ、1 kΩ の抵抗を介してトランジスタのエミッタに供給します。
DC ポルトメータでこのエミッタ電圧 (VE) を測定します。
トランジスタのベースには +5V 電源から 4.7 MΩ の抵抗を介してベース電流、約 1 μA を流します。
定電流回路ではなく、単なる抵抗なので、エミッタ電圧の変化により数 % 程度変動しますが、気にしていません。 電流値自体も、実際に測定するのではなく、 5 [V] / 4.7 [MΩ] = 1 [μA] という計算上の値を使っています。
トランジスタのコレクタ電流は OP アンプによる「電流 - 電圧変換回路」に流れ込み、電圧値として出力されます。 これを DC ボルトメータで読み取ります。
OP アンプのヴァーチャル・ショートの機能により、コレクタ電位はグラウンド電位に等しい状態に置かれます。
フィードバック抵抗に 10 kΩ を使っているので、 100 μA が 1 V に変換されます。
コレクタから流れ出す電流が、OP アンプ出力では負の電圧として表れますから、DC ボルトメータの + 端子をグラウンド、- 端子を OP アンプ出力につないで、正の数値として読み取るようにしています。
OPA177 を使っているのは、オフセット調整を省略できるようにするためで、オフセット調整を前提にすれば、特に低オフセットの OP アンプを使う必要はありません。
上であげた 3 種のトランジスタに対する IB=1μA での測定結果を下に示します。
赤の線がミューティング用トランジスタである HN1C03F の結果で、歴然と、他の2つとは違っています。
VE = 0 V での ON 抵抗は、HN1C03F で約 200 Ω、2SC3113-B では約 2 kΩ、2SC1815-GR で約 10 kΩ です。
HN1C03F と 2SC1815 とでは、ON 抵抗は実に約 50 倍違います。
ちなみに、それぞれのトランジスタの forward hFE (βF)、reverse hFE (βR) をテスタで測定した結果を示します。
C1815-GR | C3113-B | HN1C03F(B) (Q1) |
HN1C03F(B) (Q2) |
|
---|---|---|---|---|
βF | 265 | 1970 | 700 | 719 |
βR | 4 | 58 | 352 | 345 |
HN1C03F の βR は βF の約 1/2 であり、350 程度と高く、これは 2SC1815-GR の βF の 265 より高い値です。
ON 抵抗が高い汎用トランジスタの 2SC1815-GR でも、ベース電流を多量に流してやれば ON 抵抗は低くなるわけで、4.7 MΩ のベース抵抗を 100 kΩ に替えてベース電流を約 50 μA として測定した結果を下に示します。
ベース電流を多量に流したおかげで、青い線で示す 2SC1815-GR でも、赤い線で示す HN1C03F と同レベルの ON 抵抗となりましたが、ベース電流がコレクタに流れ込む電流 50 μA 分、グラフ全体が上にシフトした状態になっているのが分かります。
次回は、ベース結合アンチログ回路と組み合わせて、ON 抵抗を制御する SPICE シミュレーションを行います。