アナログシンセの VCO ブロック (45) -- マルチ出力アンチログ回路(2)


実際の回路の Vbe(MIN) 側の定電流回路を左に示します。
原理を示すブロック図でのバッファ・アンプは省略されており、定電流回路の OP アンプでトランジスタのベースおよびアナログスイッチ入力をドライブします。
その OP アンプ出力と、負荷回路とは、直接ではなく 1 kΩ の抵抗 R1 を介して接続されています。
これには、次の 2 つの理由があります。

  • トランジスタのベース電流を制限して、回路にトラブルが生じた場合にトランジスタが破壊されるのを防ぐ
  • 大きな値の容量性負荷と、OP アンプ出力を分離する

まず、最初の理由は、OP アンプにトラブルが生じて、出力が低インピーダンスで電源電圧まで張り付いてしまった場合を考えると、もしも負荷のトランジスタのベースが直結されていると、ベース・エミッタ間に低インピーダンスの 3.3 V が印加されてしまうことになり、素子の破壊を招きます。
そのような事態を防ぐために、OP アンプ出力とベースとの間に抵抗を挿入して、電流を制限します。
2 番目の理由としては、この回路の出力は単純な抵抗性の負荷ではなく、スイッチ素子を介して LPF に接続されていることへの対策です。
LPF の入力インピーダンスは、高域では、ほぼ 22 kΩ ですが、OP アンプ出力にそれが常時接続されているわけではなく、アナログスイッチによって PWM 周波数によって「チョップ」されている形になっています。
アナログスイッチが ON する期間は負荷インピーダンス 22 kΩ、アナログスイッチが OFF する期間は負荷インピーダンス無限大と変化することになり、OP アンプに対して負荷側から「外乱」が加えられる形になります。
閉ループ回路で定電流回路を構成していますから、出力側に加わった外乱でも、その影響はループ全体に広がります。
PWM の繰り返し周波数、数 kHz 〜 数十 kHz の範囲での OP アンプの周波数特性に余裕がないと、出力に加わった外乱がすぐに整定せずに、振動的に長く尾を引くような形になってしまいます。
数 MHz の帯域を持つ「ビデオアンプ」であれば問題ないのですが、LM358 / LM324 / LM2904 / LM2902 クラスの汎用 OP アンプだと問題になります。
そこで、外乱の抑制は大容量のコンデンサによるパッシブ 1 次フィルタで行うものとし、OP アンプのゲインは高域で下げて、直流に近い低い周波数の部分だけにフィードバック・ゲインを持たせるものとします。
上の回路図の R2、C2 で高域のゲインを下げています。
LTSpice によるシミュレーション用の回路を下に示します。

NS の web サイトから入手できる LM358 のマクロモデルを使っています。
「外乱」に対する系の応答を AC 解析で見るために、電圧源 VIN を抵抗を介して出力に接続しています。
時定数 T1 = R1 * C1 と、T2 = R2 * C2 とを等しく選んだ場合の AC 解析の結果 (周波数応答) を下に示します。

上の段のグラフの青い線が OP アンプ出力の特性で、T2 による効果で、ゲインが高域で低下してフィードバックが掛からなくなっている様子がわかります。
下の段のグラフの赤い線が出力端での特性で、高域側ではパッシブ 1 次 LPF の特性である -20 dB/dec でゲインが低下していることが分かります。
低域側でのゲインの低下は、OP アンプによるフィードバックが有効な領域での外乱抑制効果を示しています。
ここでは示していませんが、C2 の値を小さくして T2 < T1 とすると、OP アンプ出力の特性にピークが現れてきます。
トランジェント解析の結果を下に示します。

単一電源なのにマイナス電圧から始まっているのは、ちょっと手を抜いてシミュレーションしているせいで、気にしないでください。
これは、外乱に対する応答ではなく、電源投入時に出力が整定するまでの挙動を見ていることになります。
T2 = T1 に選んでいるので、出力が振動的になることもなく、素直に整定しています。
ここでは示していませんが、 T2 < T1 とすると振動的な応答になります。