リボンコントローラ回路 (2)

前回の回路で言い忘れていましたが、あの回路はリボン・センサである SoftPot のすぐそばに実装する「センサ・アンプ」部で、シンセ用の CV やゲート信号は (センサ部とはケーブルで接続される) 後置の本体回路で生成します。
また、前回は、押す/押さない/開放、のような適当な言い方をしていましたが、トランジスタ技術 2009 年 8 月号のタッチ・パネル特集を読み返して、今後は、タッチ/非タッチのような標準的な用語に改めることにしました。
今回は「Howland Current Pump」あるいは「Howland Current Source」と呼ばれる、(両極性)電圧-電流変換回路を使って、OP アンプ一個で SoftPot の定電流駆動とセンサ・アンプを兼ねた回路を作ってみました。
「Howland Current Pump」は Bradford Howland 氏が 1962 年ごろに考案した回路で、NS 社のアプリケーション・ノート AN-1515 ("A Comprehensive Study of the Howland Current Pump") に動作原理、歴史、調整方法など詳しく書かれています。
この回路は、日本国内では、単に「両極性電圧電流変換回路」のような名称で紹介されることが多いようで、私も AN-1515 を見て初めて人名が付けられた回路であることを知りました。
「ハウランド 電流源」のようなキーワードで検索してみても、もとは英文であるデータシートの和訳などしか引っかかりません。
SoftPot のセンス・アンプとしての応用回路を下に示します。

SoftPot は、抵抗体と、1 番電極、3 番電極、Collector 電極との接触抵抗をそれぞれ RC1、RC3、RC2 とした等価回路で示してあります。
回路的には Howland Current Pump そのもので、SoftPot (と R1、R2 の直列回路) に一定の電流 (2.5 [V] / 27 [k Ω] = 約 93 μA)を流すように作用します。
通常は定電流を流すだけが目的ですが、今回は、OP アンプ出力をバッファされた SoftPot 出力電圧として利用しています。
R2 は出力電圧に「ゲタ」をはかせて出力電圧が 0 V 付近まで落ちないようにしています。
R1 は非タッチ時の出力電圧に「ゲタ」をはかせるためのもので、タッチ時の電圧と区別できるようにしています。
図の回路定数は、非タッチ時に出力電圧は基準電圧の 2.5 V 以上の値、タッチ時には 2.5 V 以下の値になるように選んであります。
「電圧電流変換回路」ですから、定電流を流すには定電圧が必要で、シャント・レギュレータの TL431 で 2.5 V を発生しています。 TL431 の「ツェナー電流」は約 1 mA 必要ですから、5 V 電源では、直列抵抗 R19 は 2.4 kΩ 以下に選ぶ必要があります。 そんなわけで、R19 は 2.7 kΩ に揃えられませんでした。
OP アンプのフィードバック抵抗 R14 に並列に接続してある C11 は高域のゲインを落として、不安定になるのを防ぐためのものです。 100 pF という値には特に根拠はありません。 実際の回路で試してみて、安定になる値を選びます。
OP アンプモデルに NS 製の LM358 を使った LTspice シミュレーションの回路を示します。

OP アンプ出力とグラウンドの間の抵抗 R16 は、LM358 のクロスオーバひずみを避けるためのもので、3 kΩ 程度以下の値に選びます。
パラメタの RPOS で SoftPot のタッチ位置による抵抗値の変化を表現しています。
RPOS = 0 で 1 番電極側、 RPOS = 1 で 3 番電極側、 RPOS = 1.13 で非タッチ状態を表します。
シミュレーション結果のプロットを下に示します。