リボンコントローラ回路 (1)

アナログシンセビルダーズサミット 2009 の takeda さんのプレゼンで、Spectra Symbol 社の 500 mm の 「SoftPot」 を使ったリボンコントローラで 10 mVp-p 程度のノイズが取りきれないというお話がありました。
私は SoftPot は持っていないので、実際に試してみることはできませんが、ノイズ対策を考えてみました。
まず、ノイズあるいは微少な変動の原因をざっと考えると、

  1. センサ部への誘導ハム、あるいは電波の飛び込み
  2. センサ部と本体回路をつなぐケーブルでのノイズ混入
  3. センサを押す指先に伝わる筋肉の不随意的振動による接触抵抗変化および接触位置の変化

などが挙げられると思います。
3. の「位置」の変動はどうしようもありませんが、「接触抵抗」の変化については、接触部分にあまり電流を流さない形式の回路で軽減できる可能性はあります。
ここでは、まず、1. のセンサ部に飛び込むノイズの軽減を考えます。
SoftPot の構造を模式的に平面図 (上から見た図) で示します。

黒い太い線は電極で、青い部分が抵抗体です。
抵抗体の上にはスペーサを介して「Collector」と称する導電膜が重ねてあり、2番の電極につながっています。
スペーサによって、通常では抵抗体と Collector は接触していませんが、圧力をかけると抵抗体と Collector の一部が接触し、その位置に対応した抵抗が 1 番 - 2 番端子間および 3 番 - 2 番端子間に生じることになります。
上の図では、Collector については表示してありません。
takeda さんは SoftPot をアルミ・チャンネル材 (断面がカタカナの「コ」の字型のアルミ材) に貼り付けて使用されているので、SoftPot の裏側はシールドされていることになります。
Collector の幅が抵抗体を完全に覆い尽くすような幅に設定されているかどうか不明ですが、Collector 電極をシールドとして使えるような回路を考えました。
また、3 番電極 (left bus bar) は、すぐ左側に出すのではなく、ぐるっと引き回されて 1 番、2 番電極と一緒に右側に出されています。
そのため、この引き回し部分からノイズが乗る可能性がありますから、そのことも考慮する必要があります。
電源電圧は 5 V を想定し、OP アンプに LM358 などを使えるように信号レベルは 3 V 以下とした回路を下に示します。

SoftPot の抵抗値は 400 mm 以上の製品に対応して 20 kΩ としています。
回路図で、SoftPot の下を這わせてグラウンド線を引いて、シャーシー (フレーム) グラウンドに落としてあるのは、グラウンドに落としたアルミ・チャンネルに SoftPot が貼り付けてあることを表現していて、実際には、2 番端子のすぐ近くでアルミ・チャンネルに接続したほうが良いと思います。
2 番端子の Collector 電極をグラウンドに接続しておいて、SoftPot が貼り付けてあるアルミ・チャンネルとで、抵抗体部分をサンドイッチしてシールド効果を持たせます。
この回路では、SoftPot の抵抗体には常に電流が流れています。
SoftPot が押されていない状態では、抵抗体部分でフルに電圧降下が生じて、OP アンプ出力には最大の電圧が出力されます。
SoftPot を押すと、そこから 2 番端子を通じてグラウンドに落とされることになるので、出力される電圧は押された位置に応じて低くなります。
R1、R2 はどちらも「ゲタ」をはかせるためのもので、定電流値を 100 μA とすると、R2 の 2 kΩ による電圧降下分 0.2 V が常時加算されて出力されます。
これは OP アンプによっては、0 V 付近を出力しにくいものがあることを考慮したものです。
R1 の 2 kΩ は、SoftPot が押されていない場合に出力電圧にゲタをはかせて、押された状態と区別するためです。
ノイズ対策のためには、3 番端子も直接グラウンドに落とすのが良いのですが、それだと SoftPot の抵抗体の最左端を押した場合と、開放状態との区別が付かなくなってしまいます。
まとめると、OP アンプ出力電圧は、定電流値 100 μA として、

  • どこも押されていない開放状態:
    100 [μA] * (2 + 20 + 2) [kΩ] = 2.4 [V]
  • SoftPot の左端を押した状態:
    100 [μA] * (20 + 2) [kΩ] = 2.2 [V]
  • SoftPot の右端を押した状態:
    100 [μA] * 2 [kΩ] = 0.2 [V]

となります。
takeda さんの回路図では、SoftPot の 2 番端子の接続先は不明ですが、この回路のようにグラウンドに落とされているのに 10 mVp-p のノイズが乗っているのだとしたら、この回路でもノイズ対策としては有効でないことになります。