リボンコントローラ回路 (3)

今回は、正負2電源が必要ですが、Collector 電極 (2 番端子) の接触抵抗の変化の影響が小さい回路について考えます。
「SoftPot」は、データシートの表紙に「Membrane Potentiometer」と書いてある通り、ポテンショメータ、つまり、固定電極の 1 番端子と 3 番端子の間に定電圧をかけ、可変電極の 2 番端子に現れる電位を利用するのが本来の使い方です。
この使い方では、通常、高入力インピーダンス・バッファを介して 2 番端子の電圧を取り出すので、2 番端子と抵抗体の間に存在する接触抵抗には、ほとんど電流が流れず、余分な電圧降下は生じません。
通常の「可変抵抗器」であれば、可変電極はひとつしかないので、これで問題はありません。
しかし、リボンコントローラでは奏法上、「マルチ・タッチ」つまり、リボンを2か所以上タッチする場合があります。
その場合、タッチされた複数箇所の抵抗体どうしは、導電膜である Collector 電極によって「ショート」される形となり、1番端子と3番端子間のトータルの抵抗値が変化し、正常なポテンショメータ動作ではなくなります。
「楽器」としての用語で言えば、複数タッチすると「音程」が狂ってしまうことになります。 楽器として望ましいのは、複数タッチしても「低音優先」あるいは「高音優先」で、ひとつの音程だけが有効になり、他は無視されることです。
そのため、前回までのリボンコントローラ回路では、SoftPot を3端子のポテンショメータ接続ではなく、2端子のレオスタット接続で使用しています。
ここで考えているリボンコントローラでは、外来ノイズ対策のため、2番端子の Collector 電極をシールドとしてグラウンドに落とすようにしています。
この使い方では、2番端子をハイインピーダンスで受けるという通常のポテンショメータの使い方と全く逆になっています。
そこで、1番端子、3番端子、それぞれをハイインピーダンスの電流源でドライブし、2番端子を低インピーダンスでグラウンドに強制的に落とすことにより電圧レベルを確定させるようにしました。
回路図を下に示します。

プラス電源側に定電流源 I1、マイナス電源側に定電流源 I2 を設けてあります。
いま、仮に I1 と I2 の定電流値が完全に等しく、なおかつ非タッチ状態とすると、

  • (プラス電源) → (電流源 I1) → (SoftPot) → (電流源 I2) → (マイナス電源)

という経路で流れる電流は、途中で増えることもなく、減ることもなく、全く矛盾を生じません。
したがって、両方の定電流源の正常動作範囲の電圧なら、どのような電圧も取ることができ、SoftPot の電位は不定になります。
しかし、実際には電流値が完全に等しくなることはなく、必ず大小関係が生じるので不定にならずに決着はつきます。
そこで、意図的にプラス側とマイナス側の定電流値をアンバランスにしておき、非タッチ時の状態を確定させます。
上の回路図では、プラス側を 100 μA、マイナス側を 95 μA として 5 μA の差を持たせてあります。
プラス側の定電流源の方が「強い」ので、SoftPot の電位は上がっていき、やがてプラス側の定電流源の正常動作と飽和動作の境界に達します。
そこは正常動作範囲の限界なので、それより電位が上がると 100 μA より少ない電流しか流せなくなります。
したがって、プラス側の定電流源の電流出力が 95 μA まで「弱った」状態でバランスが取れることになります。
さらに、回路図にはクランプ電圧 V_CLAMP に接続されたダイオード D1 によるクランプ回路を追加してあります。
これは、定電流源の飽和によってバランスする電圧が OP アンプが正常動作する入力電圧より高い場合に必要になります。
OP アンプが「飽和」しても次段以降の動作に影響がなければ省略してもかまいません。
クランプ回路の動作としては、ダイオードが順方向バイアスされる領域で、順方向電流が 5 μA になると、マイナス側の定電流 95 μA との合計が 100 μA になり、プラス側の定電流とバランスして、その電圧で落ち着くことになります。
SoftPot がタッチされると、2番端子は低インピーダンスでグラウンドに落とされるので、高インピーダンスである定電流源は負けてしまい、2番端子の電位はグラウンド・レベルとなり、同時に1番端子、3番端子の電位も確定します。
プラス側の定電流源は 100 μA、マイナス側の定電流源は 95 μA 流そうとするので、2番端子には両者の差である 5 μA の電流がグラウンドに向かって流れます。
通常のレオスタット接続の動作では、2番端子には抵抗体を流れる電流 100 μA がそのまま流れるので接触抵抗 RC2 (の変動) による誤差が生じますが、この回路では2番端子を流れる電流が 1/20 に減っているので、接触抵抗の影響も 1/20 に減ることになります。
ただし、マルチ・タッチすると、タッチされた複数の点間では Collector 電極内に全電流 100 μA が流れるので、接触抵抗の影響が出てきます。
プラス側の定電流源の温度特性や電圧依存性などは出力電圧の精度に影響しますが、マイナス側の定電流源に要求される条件は、電流値がプラス側の値以下であることだけであり、条件を満たしていれば変動があってもかまいません。
また、電流値は 100 μA 程度と小さく、負電源は CMOS インバータを使ったチャージポンプなどで実現した簡易な物でもかまいません。
簡単のために石塚電子製の定電流ダイオード (CRD: Current Regulative Diode) E-101 (公称電流 100 μA) を定電流源としてブレッドボードで実験してみました。 電源電圧は ±5 V、R1 は 2.7 kΩ としました。
もちろん、SoftPot は持っていないので、20 kΩ の可変抵抗とスイッチを代わりに使い、回路動作の確認が目的です。 
E-101 は秋月で 1 本 50 円ですが、5 本以上では単価 30 円になります。
5 本入りのパックを購入し、その電流値を実測してみました。 測定は 20 kΩ の抵抗と直列にして 5 V 電源につなぎ、電流値を測定しました。
測定中に数 μA 程度、徐々に電流値が下がっていきます。 ある程度落ち着いた時点で値を読むと、それぞれ、124 μA、130 μA、134 μA、138 μA、158 μA となりました。
ピンチオフ電流のスペックは 50 μA 〜 210 μA なので規格内ですが、公称値 100 μA よりは高いほうにずれていました。
この中から、プラス側に 130 μA、マイナス側に 124 μA の個体を使いました。
OP アンプには LM358 を使用しましたが、クランプ回路なしでも不都合は生じませんでした。
ただし、非タッチ時に入力側の電圧は 4.4 V まで上昇するのに、OP アンプ出力は 3.6 V までしか上がりません。
その他、タッチ時の最小電圧は約 360 mV、最大電圧は約 3 V と、期待通りの動作をしました。