アナログシンセの VCO ブロック (30) -- リニア VCO 回路(21)

リワインド方式のリニア VCO 回路の構成要素として、2007 年 12 月 27 日の記事(→こちら)では、

  • コンパレータ
  • ワンショット回路
  • オン/オフ可能な定電流源
  • OP アンプ積分回路

をあげましたが、今回の回路では、前の3つを HCMOS ロジックのモノマルチ(とR/C/Di)で実現しています。
回路はシンプルになりますが、問題点もあります。
各項目別にまとめると、

  • コンパレータ
    • スレシホールド・レベルは 2.5 V 近辺となり自由に選べない
    • スレシホールド・レベルが電源電圧および温度に依存して変化する
  • ワンショット回路
    • 温度変化、電源電圧変化に対するパルス幅変動の規定なし
    • 1回でもリワインドパルスが抜けると発振停止
  • オン/オフ可能な定電流源
    • ダイオードの順方向電圧降下の温度変化により電流値が変化する

となります。
まず、コンパレータとして HCMOS ロジックのシュミット・トリガ入力を利用しているので、上述のような問題がありますが、スレシホールド電圧を高い方に拡大するなら、積分器出力を抵抗で分圧してから加えるようにすれば、簡単に実現できますので、これは問題になりません。
また、スレシホールド・レベルの (長期の) 変動は、出力波形の DC レベルの変動となるだけで、原理的には、発振周波数自体にも、リニアリティにも影響を与えません。
ただ、後続の波形整形回路では、DC レベルの変動が問題になる場合が考えられます。
したがって、一般にはコンパレータ代わりに HCMOS ロジックのシュミット・トリガ入力を利用することは大きな問題とはなりません。
次にワンショット回路の本体である HCMOS モノマルチ (74HC221 あるいは 74HC123) ですが、温度変化および電源電圧変化に対するパルス幅の変動についてはスペックが規定されていません。
したがって、実際に VCO 回路に使用した場合に、ピッチ変動が実用的な範囲におさまるかどうかは不明です。
ちなみに、タイマ IC の LMC555 では、パルス幅変動が

  • 温度変化で 75 ppm/℃ (Typ.)
  • 電源電圧変化で 0.3 %/V (Typ.)

と規定されています。
VFC (Voltage to Frequency Converter) である NJM4151、LM331 では、モノマルチのパルス幅変動と定電流回路の変動を合わせた結果の周波数変動として

  • 温度変化で
    • NJM4151 が 100 ppm/℃ (Typ.)
    • LM331 が 30 ppm/℃ (Typ.)
  • 電源電圧変化で
    • NJM4151 が 1.0 %/V (Max.)
    • LM331 が 0.1 %/V (Max.)

と規定されています。
パルス幅を温度や電源電圧の影響を受けずに正確に出したい場合には、ディジタル・モノマルチで実現する方法があります。
具体的には、高い周波数のクロックを使い、カウンタで正確に数えてパルスを出力するものです。
パルス幅は正確に出ますが、クロック周波数に依存する、本質的なジッタが存在します。
具体的な値としては、 10 MHz クロックで 100 ns のジッタになります。
アナログシンセへの応用として、この程度のジッタが「音」にどの程度影響するのかは分かりません。
ディジタル・モノマルチはランダム・ロジック / CPLD / FPGA / マイコンなどで実現できますが、マイコンの場合、割り込み応答時間が変動することによる付加的なジッタの増大が起こらないように考慮する必要があります。
それよりも、この回路では、積分器出力がスレシホールド電圧を上回った「エッジ」でしかモノマルチを起動しないので、何らかの原因でリワインド・パルスが抜けて、積分器出力がスレシホールド電圧を上回り続けると、以降はリワインド動作を行わず、発振が停止するという重大な問題があります。
これが電源投入時に起こると、全く発振を開始しないことになります。
この現象は実際の電源回路や積分器に使う OP アンプの違いにより、違ったふるまいになります。
たとえば、OP アンプに LMV358 を使うと電源の AC 側、DC 側、どちらの ON でも発振を開始するのに対し、LMC662 を使うと電源の AC 側の ON では発振を開始しません。
詳しい説明および対策は次回以降の記事で行います。
この回路ではリワインド電流源の ON/OFF のためにシリコン・スイッチング・ダイオードを使用していますが、シリコン・ダイオードの順方向電圧降下は約 -2 mV/℃ の温度特性を持っていますから、電流値を決めている抵抗の電圧降下 (約 2 V) も同じだけ変動し、結果として電流値が変動します。
全体の電圧降下が約 2 V で、変化分は1℃あたり約 2 mV ですから、
\qquad2 \times {10}^{-3} / 2 \, = \,{10}^{-3} \,= \,1000 \quad [ \rm ppm/{}^\circ C ]
の温度特性を持つことになります。
他の形式の定電流回路については、次回以降の記事で説明します。