アナログシンセの VCO ブロック (29) -- リニア VCO 回路(20)

波形写真の最後は問題の LM358 の場合です。
まず、出力に負荷抵抗をつけない状態の写真です。


説明のために LM358 の出力回路を簡略化したものを左に示します。
出力端子が GND にショートされた場合などに電流を制限して保護するための Q7、Rsc を省いたものです。
本来の回路を知りたい場合にはデータシートを参照してください。
リワインド期間に入る前の緩斜辺の部分では出力電圧は上昇していますから、LM358 の出力回路の B 級動作のコンプリメンタリ・エミッタフォロアの Vcc 側の NPN トランジスタ Q5、Q6 が ON しています。
リワインド・パルスの立ち上がり部分では、出力端子の電圧が急上昇し、今まで導通していた NPN ダーリントン・エミッタフォロア Q5、Q6 がカットオフ状態にされます。
出力端子電圧が 3 Vbe 分、つまり 1.8 V 程度上昇して、GND 側の PNP エミッタフォロア Q13 が導通するまでの間は NPN / PNP 共にカットオフ状態で、内部の 50 μA シンク電流源しか動作していない状態になります。
つまり、出力部は外部から引っ張られるまま、ほとんど抵抗できず、「素通し」部分の立ち上がりの振幅は 1.8 V 程度になっていることが分かります。
次に 45 度程度の右下がりの直線で電圧が下がっていきます。 
この部分は LM358 のスルーレート制限により急激には立ち下がれず、このような波形になっていると思われます。
リワインド期間の残りの部分は、正常動作となって積分コンデンサに PNP エミッタフォロア Q13 を通じてリワインド電流を流している部分です。
リワインド・パルスの立ち下がりエッジ以降は、立ち上がりと対称的な動作となるはずですが、出力電圧が 0.6 V 程度でクリップするために、写真のような変な波形になっています。
リワインド方式では、充電電流つまり発振周波数の変化により出力波形の下端の電圧が変化するので、入力電流を変化させると下端の変な波形も変化します。
リワインド方式では、原理的には、波形1周期内に注入される電荷の量が一定ならば、波形自体がどんな形になろうとも直線性に影響は与えません。
しかし、まだ測定していないので分かりませんが、この波形変化は直線性に影響を与えそうな気がします。
次は LM358 の出力端子と GND との間に 1.8 kΩ のエミッタ負荷抵抗を接続し、NPN エミッタフォロア Q5、Q6 が主体として働くようにした場合です。

リワインド・パルスの立ち上がりエッジで出力が持ち上げられて NPN エミッタフォロアがカットオフしますが、エミッタ負荷抵抗が「抵抗」する形になり、持ち上がりは 0.3 V 程度に抑えられています。
その後、エミッタ負荷抵抗を通じてリワインド電流が流れる形となり、立ち上がりエッジから 8 μs 付近で PNP トランジスタ Q13 がオンし、スルーレート制限されながらも急速に電圧が変化してゆきます。
立ち上がりエッジから 11 μs 付近で正常動作に戻り、正しいリワインド電流が流れ始めます。
立ち下がりエッジ側は、多少の変化はありますが、変な形は相変わらずです。
次は、出力端子と Vcc との間に 1.8 kΩ のエミッタ負荷抵抗を付けて PNP エミッタフォロア Q13 が主体となって働くようにした場合です。

この場合、出力端子から見ればシンク電流であるリワインド電流は Q13 が吸い込み、ソース電流である入力電流はエミッタ負荷抵抗から吐き出す形となり、NPN 側のトランジスタは寄与しないので、クロスオーバー歪みは生じません。
波形を見ると、立ち上がりエッジの方では少し振動的な応答になっていますが、前2つと比較すれば、全体としては素直な応答になっています。
直線性への影響も少ないと予想され、この方法なら LM358 でも「使える」んじゃないかと思います。