4 次 VCF CEM3320/V3320 (12) --- 4 次 HPF (1)

 CEM3320 / V3320 のデータシートには 4 次 LPF だけでなく、4 次 HPF / APF / BPF を実現する回路が掲載されていますが、内蔵の回路のみを使う場合、 LPF 以外はフィードバック経路が「正しくない」形になります。
 そのため、理想的な特性からはズレて、特にカットオフ周波数は 1 次フィルタのカットオフ周波数の 2.4 倍とか、0.42 = 1/2.4 倍とかの値となってしまいます。 もちろん、外部に追加の回路を設ければ「正しい」特性を得ることができます。
 まずは、「正しい」特性の 4 次 HPF の LTspice シミュレーションから始めます。
 信号に注目したブロック・ダイアグラムを下に示します。 4 次 LPF の構成の 1 次 LPF 4 段をすべて 1 次 HPF に置き換えたものです。


 入力信号のラプラス変換を「X(s)」、出力信号のラプラス変換を「Y(s)」とします。
 ゲインセル 1 段で実現した 1 次 HPF の伝達関数を、正規化角周波数 (normalized angular frequency) を使って表現した場合、カットオフ角周波数は「1 [rad/s]」ですから、

\qquad\qquad \displaystyle\frac{s}{s + 1}

となります。 HPF 構成ではゲインセル出力は非反転なのでマイナス符号は付きません。
 これをステージ 1 から 4 まで縦続接続した場合のトータルの伝達関数を「G(s)」とすると、G(s) は

\qquad\qquad\displaystyle G(s) = \frac{s^4}{(s + 1)^4}

となります。 
 フィードバック部のゲインを「-A」とします。 フィードバックの「合流点」が「加算」で表現されているので、「負帰還」であるためにはゲインの数値に「マイナス」符号が必要です。
 フィードバック部を含む全体の伝達関数「F(s)」は、

\qquad\displaystyle F(s) = \frac{Y(s)}{X(s)} = \frac{G(s)}{1 + A \cdot G(s)} = \frac{1}{(1/G(s)) + A} = \frac{1}{(1 +s^{-1})^4 + A}

となります。 これは、LPF の伝達関数の「s」を「s-1」で置き換えたもの、つまり、LPF をプロトタイプとして周波数変換をして得られた HPF の形になっています。
 この式から、フィードバック・ゲイン A = 3.8 = 4 × 0.95 として振幅特性を求めると、


となります。 これは、2020 年 12 月 16 日付けの記事 (→こちら) での 4 次 LPF の振幅特性のグラフを左右反転したものになっています。
 データシートの回路を「正しいフィードバック」が掛かるように変更した LTspice の回路図を下に示します。


 「正しいフィードバック」のためには、HPF では、入力信号とフィードバック信号とを加算してステージ 1 のゲインセルコンデンサの一端に入力する必要があります。
 spice の各種電圧源は「フローティング」で、グラウンドに縛られていないので、加算器は設けず単純に信号入力の「VIN」とフィードバック信号の「E_RESO」を直列につなぐことにより加算を実現しています。
 AC 解析の結果の振幅特性のグラフを下に示します。


 -80 dB 程度以下の領域で減衰スロープの特性が悪化していますが、カットオフ周波数のズレは見られません。