PIN フォトダイオードによるガンマ線検出回路 (1)

またまた、シンセとは離れて、PIN フォトダイオードによるガンマ線検出回路の実験をしています。
世の中では、浜松ホトニクスの S6775 を使った事例が多いようですが、価格は秋月でも 1 個 500 円であり、うまく行かなかった場合のダメージが大きいので、受光面積は約 1/4 になりますが、秋月で 1 個 150 円と安価な S2506-02 を使うことにしました。
結果として、検出率は非常に低いですが、S2506-02 でうまく動作しています。
検出回路は、Maxim のアプリケーション・ノート AN2236

Gamma-Photon Radiation Detector - Application Note - Maxim

に準拠した回路が多いようです。
私も、一部の回路は変更しましたが、回路の構成は、ほぼこのアプリケーション・ノートに習っています。 ただし、出力のコンパレータは省略し、パルス波形そのものを出力しています。
初段のアンプには、

  • 低雑音
  • 低入力容量
  • 高速動作

が求められ、それらを満足する「高性能」な OP アンプ MAX4477 の応用回路例として AN2236 は書かれていますが、ググって見つかる実際の事例としては、「汎用」のカテゴリに属する、LMC662、NJU7032、LF412 などを使う場合が多いようです。
そういう私も、手持ちの主に「汎用」の OP アンプを使っています。
まず、S2506-02 や S6775 は耐圧 35 V なので、マージンを見込んでも 30 V 程度までは電圧をかけられますが、手持ちの電源には適当なものがなく、その中でも最も電圧の高い 24 V のスイッチング方式の AC アダプターを使うことにしました。
S2506-02 や S6775 は、カソード側がサブストレートとなっていて、リードフレームに接続されています。
当然、リードフレームは半導体ペレットよりも大きく、フォトダイオードの背面側を完全に覆っています。
したがって、リードフレーム = カソード側の電位をシールド・ケースと同一にすれば、シールド効果が最大になると考えられるので、フォトダイオードのカソードをシャーシ・グラウンドとすることに決めました。
そこで、24 V 電源はプラス側をシャーシに落とし、これを基準の 0 V とし、マイナス側を -24 V のマイナス電源として扱うことにしました。
フォトダイオードと初段の OP アンプの接続は、カソード側をコンデンサを介して AC 結合している AN2236 とは違い、この回路ではアノード側を直結とし、OP アンプの非反転入力を -20 V として、フォトダイオードには 20 V の逆バイアスをかけることにしました。
フォトダイオードと OP アンプは直結なので、特性の劣化につながる保護回路なしで動作させるために、OP アンプは 24 V 電源で動作可能なものが必要です。
この点で、耐圧 6 V の MAX4477 は使いたくても使えない状況になっています。
また、フォトダイオードの向きが AN2236 と、この回路では逆になっているので、出力波形も、AN2236 の回路ではマイナス方向に立ち下がるパルス、この回路ではプラス方向に立ち上がるパルスとなっています。
回路図を下に示します。

ここで、初段の OP アンプの 2 pF は手持ちがなかったので、3 pF を 2 個直列にして 1.5 pF 相当にして使っています。
また、1 パッケージに 2 個入りの OP アンプを 2 個使っていますが、手持ちの NJM072、NJM2082、TLE2082、OPA2604、LF412 などに差し替えてテストを行っています。
出力端で測定したノイズ (rms 値) の表を示します。

ノイズ
(rms)
OP アンプ
(1, 2 段) + (3, 4 段)
45 mV NJM2082 + NJM072
55 mV OPA2602 + NJM072
66 mV LF412 + NJM072
80 mV TLE2082 + NJM072

ノイズについては NJM2082 が一番レベルが小さいですが、波形については、まだ十分に検討していません。
前述のように、フォトダイオードと OP アンプは直結なのが AN2236 とは違っています。
また、2 段目 〜 4 段目の OP アンプの入力の結合コンデンサの値を 104 (0.1 μF) としているのが AN2236 と違うところです。
コンデンサの値を変えたのは、単にガンマ線パルスの数をカウントするだけでなく、波高を計測してスペクトルも観測したいという期待があるためです。
秋月の「ブレッドボード配線タイプ」のユニバーサル基板 (P-04303) 上に実装したものが下の写真です。

実際のブレッドボードはストレー容量が大きいので、ブレッドボード上で実験はせず、直接、基板に回路を組みました。
基板上の部品の配置図を下に示します。

これは、BSCH3V を使って、レイヤー 1 にブレッドボート配線タイプユニバーサル基板のパターンを書き、レイヤー 0 に部品を配置したものです。
青色の線はジャンパ線を表していますが、表面と裏面の区別をしていないので、交差しているように見える部分もあります。
100 pF や 2 pF のコンデンサなどはハンダ面に実装しています。
実際の回路の配置と上の図は一部が異なっています。
この基板をタカチのアルミ・ケース YM-130 に組み込んでいます。 これは、別の回路のために使ったケースを再利用しただけで、もっと小さなケースにも組み込めます。
ググってみると、IC ソケットを使うとうまく行かないとか、ユニバーサル基板では無理とか、空中配線が必要とか、いろいろな記述が出てきますが、この回路では、フォトダイオードのカソード側をシャーシに落とし、ケースのふたを閉め、周囲の光が入らないように完全に遮光してやればうまくいきました。
下の写真で、基板の下側に出ている黒いリード線でケースに接続しています。

ケースに窓を開けてアルミフォイルでカバーするようなことはせず、アルミ・ケースをそのまま閉じ、1.0 mm 厚のアルミを通過してきたガンマ線をフォトダイオードで検出しています。
S6775 を使った作例では、バックグラウンドのカウントは 0.2 CPM 程度、つまり、平均すると約 5 分間に 1 回のパルスが出るようです。
S2506-02 では受光面積が約 1/4 なので、約 20 分に 1 回の程度のパルス検出頻度となる計算ですが、実際も、それに矛盾しない程度の結果となりました。
マントル」等の放射線源を持ち合わせていないので、バックグラウンドに頼るしかなく、不便だなと思っていたのですが、「もしかして」と思って、手持ちの SMC タクマー F1.8 / 55 mm のレンズをアルミケースの上に置いたところ、約 10 〜 20 秒に 1 回程度まで有意にパルス発生頻度が増え、いわゆる「トリウムレンズ」であることが分かりました。
出力パルスの波高は、最大で 4 V を超えるレベルになります。
下にそのような波形の写真を示します。 初段の OP アンプは NJM2082 を使っています。

低いレベルで「ギザギザ」しているのはノイズです。
波形のピーク部分は滑らかに見えますが、ノイズ成分にくらべて波形の変化が大きいので、相対的にノイズが見えにくくなっているだけです。
次回、詳しく述べますが、LTSpice シミュレーション結果の上側の赤い線の波形で示す通り、特徴的な波形となり、単に 2 段目以降のアンプに加わったインパルス性のノイズとは、はっきりと区別できます。


少なくとも、たとえノイズだとしても、それは初段のアンプの入力に加わったインパルス性のノイズであることが分かります。

波形のピークレベルが低い場合の写真を下に示します。

ノイズのレベルとの差が小さくなっています。
ピークレベルが 400 mV 程度になってくると、単なるノイズとの区別が付きにくくなります。
また、たまに、下の写真のような「太い」波形が観測されることがあります。
通常、波形が鋭いピークとなっている幅は 25 μs 程度ですが、これは 50 μs 程度あります。
これは、ノイズなのかどうか良く分かりません。