アナログシンセの VCO ブロック (21) -- リニア VCO 回路(16)

今度は Exar 社のリニア VCO チップ XR-2209 です。 三角波と方形波を出力できます。
「RJB」さんの Blog を見て初めて知りました。 例によって、私はこのチップを見たことも、使ったこともないので、データシートをネタに話を進めます。
下に XR-2209 のデータシートの内部回路を簡略化したものを示します。
三角波および方形波出力部を省略してあります。
また、データシートの回路図では (D) 点と Vcc が直結されていますが、それでは、電源電圧を超える電圧がかかる部分が出てきてしまいます。 たぶん、それは間違いだと思います。
いろいろ考えてみると、ここは抵抗 2R が抜けていると判断するのが最も妥当だと思います。
単一電源でも使用できますが、説明の都合上、グラウンドに対し正負対称な電源を使用するものとします。

5 番ピンはバイアス設定入力で、通常、図のようにグラウンドから Vbe 1個分マイナス側の電圧を入力します。 したがって、Q23 の Vbe がキャンセルされて (B) 点 (Q6, Q11 のエミッタ) の電圧が 0 V になります。
発振周波数は 4 番ピンから引き出される電流に比例します。 普通は抵抗を介して、マイナスの制御電圧につなぎます。 ここでは、その電流値を I とします。
Q8, Q9, Q12, Q19 は電流スイッチです。 Q12, Q19 はコンパレータも兼ねています。
Q7, Q10 はコンパレータの比較レベルを作り出しています。
Q5, Q6, Q11, Q13 は Vbe マルチプライアおよび Q8, Q9 のバイアス発生の機能があります。
Q5, Q13 のエミッタには、それぞれ Q6, Q11 の Vbe * (R1+R2)/R2 の電圧が発生します。 この電圧を、この図では省略した方形波生成回路へ送っています。
ベースが串刺しになっている Q6, Q7, Q8 の組と、Q9, Q10, Q11 の組とは、一方の組がオンなら他方の組はオフになります。
図には Q8 がオンの時の電流の流れる経路を示してあります。
Q6 のエミッタ電流と Q8 のエミッタ電流は両者とも I なので互いの Vbe は等しく、したがって、(A) と (B) は等電位となり、(A) 点 (Q8, Q9 のエミッタ) の電位は 0 V となります。
(C) 点 (Q7, Q10 のエミッタ) の電位は (A), (B) 点とは直接関連しませんが、0 V に近い値になります。 
ほぼ |Vee| = Vcc が抵抗 4R にかかっていますから、ここに流れる電流はほぼ Vcc / 4R となります。 この電流が (D) 点の抵抗 2R と、左右どちらかの抵抗 R に流れます。
したがって、(D) 点の電圧は Vcc - 2R * Vcc / 4 R = (1/2) Vcc となり、電流の流れている左側の R につながっている Q19 のベースの電圧は (1/2) Vcc - (1/4) Vcc = (1/4) Vcc となります。
Q12 はオンでコレクタ電流 I が流れています。 ベース電流は小さいとすると、右側の R には、ほとんど電流は流れず、ベース電圧は (D) 点とほぼ同じ (1/2) Vcc になります。
したがって、Q12 のエミッタ (= タイミング・コンデンサの右端) の電圧は (1/2) Vcc - Vbe の程度に低インピーダンスで保持されています。
タイミング・コンデンサには左向きの電流 I が流れていますから、端子間の電圧は増大していきますが、右端は (1/2) Vcc - Vbe にクランプされているので、左端に接続されている Q19 のエミッタ電圧が降下していきます。
Q19 のベース電圧は (1/4) Vcc ですから、エミッタ電圧が (1/4) Vcc - Vbe まで下がった時点で Q19 がオンになり、コレクタ電流が流れ始めます。
この電流は、Q1 → Q2 → Q13, Q11 という経路で伝播し、Q9, Q10 をオンにします。
Q10 がオンになると、右側の抵抗 R に電流が流れ出し、Q12 のベース電圧が下がり Q12 がオフになります。
Q12 のコレクタ電流の消失は、Q4 → Q3 → Q5, Q6 という経路で伝播し、Q7, Q8 をオフにします。
Q7 がオフになると、左側の抵抗 R に流れていた電流がなくなり、Q19 のベース電圧が上がり Q19 のベース電圧が (1/2) Vcc になります。
こうして、左右の回路のオン/オフが逆転し、タイミング・コンデンサに流れる電流の方向も逆転します。
説明が分かりにくくなってしまいましたが、このようにして発振動作を継続します。
回路図で抵抗 2R が抜けているはずだという予想は、コンデンサの端子 (2 番ピン、3 番ピン) の電圧波形を観測してみれば分かります。
予想が正しければ (1/2) Vcc を中心にして上下に ±(1/4) Vcc 分だけ振れるはずです。
元の回路図通りなら、Vcc を中心にして上下に ±(1/4) Vcc 分だけ振れるはずです。
アナログシンセへの応用は簡単で、かつ好都合です。
4 番ピンから電流を引き出せば良いので、NPN トランジスタによるアンチログ回路に直結できます。
電圧レベルも、ほぼ 0 V ですから、アンチログ回路のコレクタ損失の点でも有利です。
ダイオードを使わず、直接 5 番ピンをグラウンドに落としても、4 番ピンの電圧は +0.7 V 程度になるだけですから、それでも構いません。