アナログシンセの VCO ブロック (20) -- リニア VCO 回路(15)

前回のバイポーラ・トランジスタによる VCM の基本回路は、わずかトランジスタ2個 (カレントミラーを含めると5個) で、

の機能を実現しています。
しかし、精度、動作周波数、周波数レンジなどの点については十分ではありません。
性能を向上させるためには、回路を複雑化する必要があります。

左図はメタルゲート CMOS ロジックの 4000 ファミリに含まれている PLL IC の RCA CD4046 の VCO 部の内部回路です。
参考文献*1の図で、5 ピンの INH 信号による切り替え回路は省略し、VCO 部は常にアクティブになっているものとし、インバータは4個直列になっているのを省略して2個だけ書いてあります。
G1, G2 の NOR ゲート2個が SR-FF を構成し、直列になっているインバータの (1/2)VDD スレシホールドがコンパレータの機能、P4, P5, N2, N3 の MOS トランジスタが電流スイッチの機能を果たしています。
N1 のソースフォロアで 9 ピンの入力電圧を電流に変換したものを、P1, P2 の PMOS カレントミラーで吐き出し電流に変換し、電流スイッチ部に流します。
電流スイッチ部の NMOS がオンになっている側は電圧は VSS (=GND) に固定され、PMOS がオンになっている側から電流がコンデンサに流れ込みますから、前回の例とは逆に、コンデンサの一端の電圧は直線的に増加します。
コンデンサの電圧がスレシホールド (5 V 電源では約 2.5 V) に達し、FF が反転すると、それまで NMOS で VSS に固定されていた側にマイナス電位が掛かることになりますが、実際にはパッドの保護用ダイオードが導通して、約 -0.7 V にクランプされます。
したがって、5 V 電源では、6 ピンおよび 7 ピンの電圧は、約 -0.7 〜 2.5 V の範囲で変化します。
NMOS トランジスタ N1 のドレインにつながっている抵抗 R2 は発振周波数の下限をオフセットするもので、周波数レンジを広く取りたい場合は抵抗をつながず、オープンにします。
また、R1, R2 を両方とも取り去り、9 ピンの VCO IN を VSS に落とし、12 ピンからソース電流を引き出せば、電流入力タイプの VCO として使用できます。
データシートでは R1 の最小値は 10 kΩ という記述があるので、5 V 電源では通常の使い方で、 コンデンサに流れる電流値としては、最大 5 / 10e3 = 0.5 [mA] になります。
電流の向きや、許容できる最大電流の点で、 NPN トランジスタによるアンチログ回路に接続するのにぴったりです。
のこぎり波や三角波を得るのは手間がかかるので、音源には向きませんが、テスト用途には気軽に使えます。

*1:畑 雅恭・古川計介著:「PLL-IC の使い方」、pp.199、秋葉出版、1991年6月10日第3刷、ISBN:4871840034