アナログシンセの VCO ブロック (19) -- リニア VCO 回路(14)

次は、違うタイプの電流反転方式です。
今まで説明してきたタイプでは、タイミング・コンデンサの一端は接地され、他方の端子にソース電流とシンク電流とを交互に流して三角波を発生させるものでした。
このタイプでは、コンデンサに常に正の電圧が掛かるように構成できるので、極性のある電解コンデンサを使用することができます。
それに対し、ここで説明するタイプは VCM (Voltage Controlled Multivibrator) と呼ばれ、コンデンサの両端は、それぞれ対称的な回路に接続されます。
コンデンサ両端の電位差を取ると、正負対称な三角波になっており、有極性のコンデンサは使用できません。
また、コンデンサの一方の端子単独の電圧をみると、三角波とはなっていません。 三角波を得るためには外部回路でふたつの端子電圧の差を求める必要があります。

バイポーラ・トランジスタによる VCM の基本的な回路を左図に示します。
Q1, Q2 のベースとコレクタとの接続は、双安定マルチバイブレータのようにタスキがけになっていて、状態を保持する機能があることが分かります。
いま、最初に Q1 がオフで、Q2 がオンだとします。 つまり、I1 = 0 です。 さらに、コンデンサ電荷はなく、両端の電位差はゼロとします。
Q2 のベース電流は小さいとすると、R1 での電圧降下は少なく Vb2 は、ほぼ Vcc です。 一方、Ic2 は比較的大きく、R2 での電圧降下がダイオード D2 でクランプされ、Vc2 = Vcc - 0.5 [V] 程度になります。
ここで、ダイオードの順方向電圧降下 IF = 0.5 [V] 程度、トランジスタの Vbe = 0.7 [V] 程度とします。
このようにして、Q1, Q2 の各端子の電圧を求めると、

  • Vb1 = Vc2 = Vcc - 0.5
  • Vc1 = Vb2 = Vcc
  • Ve1 = Ve2 = Vb2 - 0.7 = Vcc - 0.7

となります。
Vbe1 = Vb1 - Ve1 = 0.2 [V] ですから、たしかに Q1 はオフであることが分かります。
各エミッタにつながっている電流源は制御電圧 Vcont により電流値が制御されています。
Q1 側の電流 I1 はゼロですから、電流源はコンデンサを通じて電流 I0 を流そうとします。 コンデンサは Q2 側からこの電流を引き抜くので、結局 Q2 側の電流は I2 = I0 + I0 = 2 * I0 となります。
このようにして、コンデンサには左向きの一定の充電電流 I0 が流れ、端子間の電圧が直線的に増加していきます。 
コンデンサ右端は、オン状態で低インピーダンスの Q2 のエミッタに接続されているので、右端の電圧 Ve2 は、ほぼ一定の値となります。
一方、コンデンサ左端は、オフ状態で高インピーダンスの Q1 のエミッタに接続されているので、こちらの電位 Ve1 が下がっていきます。
Ve1 が下がっていって、Vbe1 = Vc2 - Ve1 = 0.6 [V] 程度になると、それまでオフだった Q1 のコレクタに電流が流れ始めます。 この時点で Ve1 = Vc2 - 0.6 = Vcc - 1.1 [V] 、また Ve2 - Ve1 = Vcc - 0.7 - (Vcc - 1.1) = 0.6 [V] 程度です。
Ic1 が流れると R1 による電圧降下で Vb2 が下がり Q2 はカットオフへ向かいます。
こうして、Q1, Q2 のオン/オフが逆転し、今度はコンデンサに右向きの電流 I0 が流れ始めます。
この時点で再び Q1, Q2 の各端子の電圧を求めると、

  • Vb2 = Vc1 = Vcc - 0.5
  • Vc2 = Vb1 = Vcc
  • Ve1 = Vb1 - 0.7 = Vcc - 0.7
  • Ve2 = Ve1 + 0.6

となります。
この繰り返しで発振が持続します。

左図はコンデンサ両端の電圧をグラフにしたもので、両端の電位差は三角波になりますが、各端子の波形は、交互に休むような形となっています。
両方の電圧を単純に足せば、のこぎり波になりますが、実際には、スレシホールドの電圧値が生で表れてしまいますので、その対策が必要です。