アナログシンセの VCO ブロック (18) -- リニア VCO 回路(13)

次は Curtis Electromusic Specialties 社のアナログシンセ用 VCO チップ CEM3340 を取り上げます。(廃品種)
とは言っても、私はこのチップを見たことも使ったこともありません。 データシートのブロックダイアグラムをネタに話を進めます。
CEM3340 は、アナログシンセの VCO ブロックに必要なサミング・アンプ、アンチログ回路、温度補償回路、リニア VCO 回路、波形整形回路をワンチップに集積したものです。

リニア VCO 部のブロックダイアグラムを簡略化したものを左図に示します。
ハード・シンク、ソフト・シンクに関連する部分は省略してあります。
発振メカニズムとしてはヒステリシス・コンパレータが使われています。
NPN トランジスタによるアンチログ回路からの直接のシンク電流 (-I) と、カレントミラーで電流の方向を反転してソース方向に変換した電流 (+I) とをスイッチで切り換えてコンデンサに流しています。

高域補償

電流反転方式でも、コンデンサの電圧がスレシホールドに達してから、実際に電流が反転するまでの遅延時間が存在し、リセット方式と同様に高い周波数で影響が大きくなる誤差の原因となります。
しかし、残念なことに、リセット式と同様にコンデンサに抵抗 R を直列に接続してゲタをはかせる高域補償 (Franco's compensation) は使えません。

もし抵抗 R をコンデンサに直列に接続すると、左図のように、コンデンサに電流 I が流れ込んで電圧が上昇する場合には、抵抗での電圧降下分が正方向に加算され、理想波形 {}+ R \cdot I となります。
一方、コンデンサから電流 -I が流れ出して電圧が下降する場合には、抵抗での電圧降下分が負方向に作用して、理想波形 {}- R \cdot I となります。
つまり、三角波の上端と下端で  2 \cdot R \cdot I の不連続が生じることになり、これでは音源波形としては使えません。
そこで、CEM3340 では、アンチログ回路の出力トランジスタに並列にエミッタ面積1/4のトランジスタを接続し、アンチログ出力電流の1/4の電流を取り出してあり、これを高域補償のために使用します。
この電流を電圧に変換し、高域で急激に大きくなる電圧として、大きさを調整したうえでピッチのサミング・アンプに加え、高域でのピッチを上げるように作用させます。
リセット式 VCO の Franco's compensation は、原理的には全周波数域でぴったりと合う方式ですが、サミング・アンプに補正を加える方式は一部分しか合いません。