アナログシンセの VCO ブロック (16) -- リニア VCO 回路(11)

4151 を使ったリワインド方式 VCO の実際の回路例として、Rhodes Chroma の例を示します。

上の図がリニア VCO 部を抜き出したものです。 3 ピンの扱いを除いて、基本回路に回路定数を入れただけのような回路です。 3 ピンの回路は、リワインド方式の「ランプ波形」を「のこぎり波」に近づけるためのものです。
まず、ワンショット部の時間設定は
\quad\quad T_{\small\rm R} = 1.1 \cdot R_{15} \cdot C_{1} = 1.1 \times 30 \times 10^3 \times 0.001 \times 10 ^{-6} = 33 \times 10^{-6}
つまり、33 us になります。 
サービス・マニュアルの記述では約 20 us となっており、少々違いますが、その辺のことは気にしないことにします。
マイコン制御で DA コンバータ出力の 0 〜 5 V の ピッチ CV が VCO ブロックに与えられています。 CV は正の電圧だけなので、0 V の時にアンチログ出力には基準電流 (約 120 uA) と同じ電流が流れ、これが最大値となります。
トリマ R1 を回すと発振周波数が変わりますが、ここはそれが目的ではなく、のこぎり波が 0 〜 5 V まで振れるように、波形の下端の電圧が 0 V 付近になるよう振幅調整するのが目的です。
タイミング・コンデンサは 0.001 uF (1 nF) なので、このコンデンサに注入して電圧を 5 V 引き戻すための電荷の量は
\quad\quad Q_{\small\rm R} = C_3 \cdot V_{\small\rm R} = 0.001 \times 10^{-6} \times 5 = 5 \times 10 ^{-9}
つまり、5 nC となります。
リワインド電流 I_{\small\rm R} をリワインド時間 T_{\small\rm R} 流して蓄積される電荷の量は Q_{\small\rm R} = I_{\small\rm R} \cdot T_{\small\rm R} ですから、
\quad\quad I_{\small\rm R} = Q_{\small\rm R} / T_{\small\rm R} = 5 \times 10 ^{-9} / (33 \times 10^{-6}) = 151.5 \times 10^{-6}
つまり、トリマ R1 を回して、リワインド電流を約 151 uA に調節すれば良いことになります。
唯一、普通の使い方と違うのが 3 ピンの扱いです。
これは通常の VFC としては周波数出力端子で、リワインド期間だけ「L」になるパルスが出力されます。
ディジタル回路とのインターフェースがしやすいようにオープンコレクタ出力となっています。 普通は +5 V などのディジタル Vcc に抵抗でプルアップして使うものです。
ここでは 1 kΩ の抵抗を介して OP アンプ出力と接続されています。 リワインド期間でないときは 3 ピンはオープンですから、最終出力には影響を与えません。
リワインド期間では 3 ピンはオンになり、グラウンドに落ちますから、最終出力はグラウンド電位を強制されます。

周波数が高くて、リワインド区間の比率が大きくなった場合の波形を左図に示します。
「のこぎり波」というより「台形波」という感じで、青の破線で示した理想波形とは違いますが、赤の破線で示した元の波形よりは高調波が豊かなはずです。
そのほかに、このような加工を施す理由のひとつとしては、後段での PWM 波形生成で周波数によってデューティーが変化するのを防ぐためだと思われます。
元のランプ波形だと、リワインド時間が無視できる低い周波数で PWM 波のデューティーを合わせても、リワインド時間が無視できなくなる高い周波数ではリワインド時間の影響でデューティーがズレてしまいます。
実際には、Chroma の「のこぎり波音源」には後段の波形生成部で作られた PWM 波もミックスされた複雑な波形が使われています。
Chroma は VCO は2個一組 (A-VCO, B-VCO) で構成されていて、A-VCO から B-VCO に対して VCO シンクをかけることができます。
B-VCO はリセット式のように、タイミング・コンデンサにリセット用の PNP トランジスタが接続してあり、シンクをかける時には A-VCO の波形の立下りを微分したパルスをリセット用トランジスタに加えて強制リセットします。
シンクをかけない時は、常にリセット用トランジスタはオフです。