アナログシンセの VCO ブロック (15) -- リニア VCO 回路(10)

リワインド方式では、リセット方式のところで示した「1コンパレータ + ワンショット」が基本の発振メカニズムとなります。
リワインド方式は、基本的には

  • コンパレータ
  • ワンショット回路
  • オン/オフ可能な定電流源
  • OP アンプ積分回路

から構成されます。
このうち、OP アンプ積分回路を除く部分を1チップ化したのが、NJM4151 あるいは LM331 です。
両者とも VCO ではなく、VFC (Voltage-to-Frequency Converter) として売られています。
VFC では、電圧を周波数に変換できれば良いので、IC の出力はパルス波になっており、シンセの音源用の波形としては使えません。
NJM4151 は新日本無線 (JRC) が製造しているセカンド・ソース品です。 
レイセオン RC4151、フェアチャイルド uA4151 が存在する(していた)ことは確認したのですが、オリジナルのメーカーはどこか分かりません。
現在、手に入れやすいのは JRC の NJM4151 です。*1
NS 製の LM331 は NJM4151 の改良型という感じです。*2
NJM4151 が内部のバイアス電流の安定化用にツェナーダイオードを使っているため、動作には電源電圧 8 V 以上必要なのに対し、LM331 は 4 V 電源から動作できます。
値段は高いのですが、内部回路も LM331 の方が少し上等な回路を使っています。
アナログシンセの VCO としては、下図のように OP アンプによる積分回路と組み合わせることになります。

リワインド電流はソース(吐き出し)方向なので、組み合わせるアンチログ回路は NPN トランジスタ使用のシンク(吸い込み)電流を流し込むタイプを使います。
この構成は、NJM4151 のデータシートで言うと「第4図 高精度 V-F 変換回路」の場合に相当します。
まず、初期状態として、のこぎり波は緩斜辺の状態にあり、リワインド状態ではないとします。

  1. アンチログ電流を積分して OP アンプ出力電圧(7ピン)が上昇
  2. 7 ピンの電圧が 6 ピンの比較電圧に達する
  3. コンパレータが反転し、ワンショット回路をトリガする
  4. 定電流回路がオンし、電流値 (1.90/Rs) の定電流が流れ始める
  5. リワインド電流により OP アンプ出力電圧が下降を始める
  6. T = 1.1・Ro・Co 時間が経過するとワンショットがオフになる
  7. 定電流回路がオフになり、電流がゼロになる
  8. OP アンプ出力電圧が上昇を始める
  9. 1. へ戻る

の繰り返しがこの回路の動作です。
リワインド期間の波形の傾きは、それほど大きくならないのが普通ですから、OP アンプのスルーレート制限に引っかからずに、常に OP アンプを正常動作させることができます。
NJM4151 のデータシートでは、定電流源の電流値は、標準値が 140 uA 程度であると記されているだけで、この電流源で流せる電流の最大値の規定がありません。 LM331 では、定電流源の動作範囲として、10 〜 500 uA という規定があります。
これがリワインド電流となるわけで、アンチログ出力電流の最大値がこの値以下でなければ発振が成立しません。 したがって、リワインド電流値によって、アンチログ回路の出力電流のレンジの選択に制限が付くことになります。
もし、リワインド電流を増やしたい場合は、外部に定電流源を設ける必要があります。
好都合なことに、OP アンプのマイナス入力端子はバーチャル・グラウンドが成立していますから、単に抵抗一本をマイナス入力端子と正電源との間に接続するだけで定電流を流すことができます。
つまり、アナログ・スイッチと抵抗一本あれば、リワインド電流の機能を実現できます。
タイミング・コンデンサの容量、リワインド電流、リワインド時間、のこぎり波の振幅、アンチログ回路の出力電流のレンジなどは相互に関係します。
最初に変な値を選んでしまうと、他のパラメータが不都合な値になる可能性もありますから、慎重に選ぶ必要があります。

*1:DIP タイプの NJM4151D の単価は、秋月 300 円、共立電子 231 円、サトー電気 199.5 円

*2:DIP タイプの LM331N の単価は、共立電子 945 円、若松通商 798 円、サトー電気 483 円