アナログシンセの VCO ブロック (2) -- アンチログ回路(1)

アンチログ (anti-log) 回路とは、対数 (logarithm) 関数の逆関数である指数 (expornential) 関数を求める回路のことです。
「アンチログ」と呼ばれるのが一般的で、なせか、あまり「指数アンプ」とは呼ばれないようです。
回路の実現方法として良く使われるのは、バイポーラ・トランジスタV_{\small{\rm BE}}I_{\small{\rm C}} との関係が指数関数になることを利用したものです。
トランジスタの裸の特性を利用しているので、コレクタ電流の小さい領域と大きい領域で誤差が生じます。
微少電流領域では、トランジスタ自体のコレクタ漏れ電流やh_{\small{\rm FE}} の低下、また、外部回路の漏れ電流、外部電磁波ノイズなどが問題となり、大電流領域では、トランジスタのコレクタ直列抵抗を原因とする、理想半導体動作からのズレが問題となります。
実際のところ、ズレが生じる領域に補正をかけて動作レンジを拡大することも難しく、要求される精度を満たす、トランジスタの特性のオイシイところだけを利用するのが一般的なようです。
バイポーラ・トランジスタのエバース・モル (Ebers-Moll) モデルでは V_{\small{\rm BE}}I_{\small{\rm C}} との関係は
\quad\quad I_{\small{\rm C}} = I_{\small{\rm S}} \cdot \exp \left ( V_{\small{\rm BE}} \cdot \frac{\rm q} {{\rm k} T} \right )
と表されます。*1
ここで、I_{\small{\rm S}} は逆方向飽和電流、k はボルツマン定数、q は電子の電荷T は (PN 接合部の) 絶対温度です。
この式で、指数関数の引数に絶対温度 T が含まれており、温度に依存することが分かりますが、実は逆方向飽和電流 I_{\small{\rm S}} にも温度依存性があり、しかも、複雑な変化をします。
トランジスタ一個だけでは、この複雑な温度依存性を避けられないので、特性の一致したトランジスタを2個使って I_{\small{\rm S}} 依存性をキャンセルすることを考えます。
2個のトランジスタを、添え字 1, 2 で区別します。 トランジスタは熱結合されていて、両者は等しい温度 T に保たれているものとします。 それぞれの式は、
\quad\quad I_{\small{\rm C2}} = I_{\small{\rm S}} \cdot \exp \left ( V_{\small{\rm BE2}} \cdot \frac{\rm q} {{\rm k} T} \right )
\quad\quad I_{\small{\rm C1}} = I_{\small{\rm S}} \cdot \exp \left ( V_{\small{\rm BE1}} \cdot \frac{\rm q} {{\rm k} T} \right )
上の式を下の式で割って、
\quad\quad \begin{eqnarray*} \frac{I_{\small{\rm C2}}} {I_{\small{\rm C1}}} &=& \frac{I_{\small{\rm S}} \cdot \exp \left ( V_{\small{\rm BE2}} \cdot \frac{\rm q} {{\rm k} T} \right )} {I_{\small{\rm S}} \cdot \exp \left ( V_{\small{\rm BE1}} \cdot \frac{\rm q} {{\rm k} T} \right )}\\ &=& \exp \left [ (V_{\small{\rm BE2}} - V_{\small{\rm BE1}}) \cdot \frac{\rm q} {{\rm k} T} \right ] \end{eqnarray*}
2個のトランジスタV_{\small{\rm BE}} の差を
\quad\quad \Delta V_{\small{\rm BE}} \equiv V_{\small{\rm BE2}} - V_{\small{\rm BE1}}
と定義し、{I_{\small{\rm C1}}} を一定に保てば、 {I_{\small{\rm C2}}} \Delta V_{\small{\rm BE}} の指数関数になることがわかります。
しかし、まだ、絶対温度 T の依存性は残っており、実際の回路で、どのように補正するかが問題になります。
実際の回路例については次回以降に説明します。

*1:本来のエバース・モル・モデルはもっと複雑ですが、いくつかの仮定をおいて簡略化したものを示しています。