4 次 VCF CEM3320/V3320 (15) --- 4 次 BPF (1)

 データシート記載の 4 次 BPF 回路では、ステージ 1 のゲインセルが HPF 構成になっているので「正しくない」フィードバックが掛かることになります。
 ステージ 1 のゲインセルが LPF になるように 1 次フィルタの順序を入れ替え、外部に設けた反転増幅回路と併用すれば、「正しいフィードバック」が掛かる回路にできます。 その構成では、内蔵のフィードバック・ゲインセルを活かすことができ、フィードバック量を電圧 (電流) 制御することができます。
 まずは、「正しいフィードバック」の場合の周波数特性を伝達関数から求めます。
 データシートの回路では、

    1 次 HPF → 1 次 HPF → 1 次 LPF → 1 次 LPF

の順番に縦続接続されていますが、ステージ 1 が LPF になるように順序を入れ替えて、

    1 次 LPF → 1 次 HPF → 1 次 HPF → 1 次 LPF

とした場合の、信号に注目したブロック・ダイアグラムを下に示します。


 理論上は、特性は各 1 次フィルタの縦続接続順序には影響されません。 実チップでの実現を考慮した変更です。
 4 次 LPF や 4 次 HPF との大きな違いは、フィードバック経路に図で青色の破線で囲ったようにゲイン「-1」の反転増幅回路が挿入されていることです。 これは、1 次 HPF 2 段 + 1 次 LPF 2 段の組み合わせの位相特性が、カットオフ周波数で位相 0° となるため、カットオフ周波数付近で正帰還になるためには、フィードバック経路でのゲインの値が正になることが要求されるからです。
 フィードバック経路の「-A」のファクターに対しては実チップ内蔵のゲインセルを活用することができ、電圧 (電流) 制御の恩恵が受けられます。
 全体の伝達関数 F(s) を求めると、

\qquad\displaystyle F(s)=\frac{Y(s)}{X(s)}  = \frac{1}{ \frac{(s +1)^4}{s^2} - A}  = \frac{s^2}{ (s +1)^4 - A\cdot s^2}

となります。 A = 3.68 = 4 × 0.92 として、この伝達関数の周波数特性をプロットすると、


となります。
 ちなみに、フィードバック経路の外付けの反転増幅器なしで、内蔵フィードバック・ゲインセルによる「負帰還」が掛かる状態での周波数特性をプロットすると、


のように、カットオフ角周波数付近がピークとならずに凹んで平坦になります。 これはこれで利用価値があるかも知れません。
 「正しいフィードバック」での LTspice シミュレーション記述を下に示します。


 データシートの回路に対し、ステージ 1 の 1 次 HPF とステージ 3 の 1 次 LPF とを入れ替えて、

    1 次 LPF → 1 次 HPF → 1 次 HPF → 1 次 LPF

の順番にしています。 (ステージ 2 の HPF とステージ 4 の LPF とはそのまま)
 「-1 倍」の反転増幅器は使用せず、フィードバック・ゲインを決めている電圧制御電圧源の「E2 エレメント」を「E エレメント」に置き換えて、「反転の反転」で同相の増幅をさせています。
 異種のフィルタ間での干渉を防ぐために、PNP バイアス回路のインスタンスをふたつ作成して、LPF 構成のステージふたつに対してひとつのインスタンスを割り当て、HPF 構成のステージふたつに対してもうひとつのインスタンスを割り当てています。
 AC 解析の結果の振幅特性のグラフを下に示します。


 赤色のトレースが FCIN = -18.2 mV (周波数最大、ゲインセル電流最大)、青色のトレースが FCIN = 0 mV です。 以降、18.2 mV ステップでプロットされており、茶色のトレースが FCIN = 163.8 mV (周波数最小、ゲインセル電流最小) に対応します。
 振幅が -70 dB 程度以下の領域で減衰スロープが本来のものより緩やかになっています。 ピーク周波数をカーソル機能を使って読み取ると、FCIN = -18.2 mV (赤色のトレース) で約 12.2 kHz となっています。