dsPIC33FJ64GP802 (23) --- 周波数シフター (7)

 "Table of Integrals, Series, and Products" でのグーデルマン関数 (Gudermannian function, 関数名は「\mathrm{gd}」と表記) の定義を引用します。

\hspace{0em}\displaystyle
  \begin{align}
    &\mathrm{gd}\ x = \int_{0}^x \frac{dt}{\cosh t} = 2 \arctan e^x -  \frac{\pi}{2} 
      &\tag{1.490-1.} \\
    \mathstrut \\  
    &x = \int_{0}^{\mathrm{gd}\ x} \frac{dt}{\cos t} = \ln \tan \left( \frac{\mathrm{gd}\ x}{2} + \frac{\pi}{4} \right)
      &\tag{1.490-2.}
  \end{align}

 1.490-2. 式は、 u = \mathrm{gd}\ x と置くと、

\hspace{0em}\displaystyle
\begin{align}
     x = \mathrm{gd}^{-1}\ u = \int_{0}^{u} \frac{dt}{\cos t} = \ln \tan \left( \frac{u}{2} + \frac{\pi}{4} \right)
\end{align}

と表現できて、グーデルマン関数の逆関数\mathrm{gd}^{-1}」 の定義となっています。 以降、「グーデルマン関数の逆関数」のことを「逆グーデルマン関数」と略記します。
 1.490-1. 式のグーデルマン関数のグラフは次のようになります。

 一方、コーナー周波数 1 Hz の 1 次 APF (AllPass Filter) のボード線図の位相線図のみを LTspiceIV で描いた結果を下に示します。

 1 次 HPF や 1 次 LPF でなく APF にしてあるのは、位相を 0° から -180° まで偏移させたいからです。 1 段の HPF や LPF では位相は -90° までしか回りません。
 ボード線図の位相線図の横軸が対数目盛りになっていることを一旦忘れて、位相線図のプロットの形状をそのままに、あたかも任意のリニア目盛りの横軸のグラフとして配置されていると考えると、コーナー周波数 = 1 Hz と位相 = -90° の点に対して奇対称な形となっていることが分かります。
 グーデルマン関数の値が「ラジアン」で表現された角度であると解釈すると、上のふたつのグラフには、次のような共通点と相違点があります。

  • 位相の変化する範囲は -\pi/2\pi/2 と、0° ~ -180° で、「変化の幅」としては同じ
  • グラフの左端側の位相は、-\pi/2 と 0° で \pi/2 (90°) の差
  • 横軸の値を左から右方向へ変化させた場合、位相が「増加」と「減少」の差

 定数「オフセット」と「極性」を調節すれば、両方のグラフは良く似た形になり、実際、位相線図はグーデルマン関数を使って表すことができます。 そのことを式を使って確かめてみます。
 まず、コーナー角周波数 1 rad/s の 1 次 APF の伝達関数 H(s)

\hspace{0em}\displaystyle
\begin{align}
H(s) = \frac{s - 1}{s + 1}
\end{align}

とすると、虚数単位 i = \sqrt{-1} として、位相特性は次のように表されます。

\hspace{0em}\displaystyle
\begin{align}
\theta(i\omega)= - \arctan\left| \frac{\mathrm{Im}\left[ H(i\omega) \right]}
                                                          {\mathrm{Re}\left[ H(i \omega) \right]}
                                            \right|
   = -2 \arctan( \omega )
\end{align}

 ここで、角周波数 \omega を対数目盛でプロットしたグラフ自体を、新たにリニアな目盛り x で見直すことを、

\hspace{0em}\displaystyle
\begin{align}
x &= \ln \omega \\
\omega &= e^{x}
\end{align}

と表現して、位相特性の式に代入すると、

\hspace{0em}\displaystyle
\begin{align}
\theta(i\omega)
   = -2 \arctan( \omega ) = -2 \arctan( e^{x} ) = -\mathrm{gd}(x) - \frac{\pi}{2}
\end{align}

となり、グーデルマン関数で表現できることが分かります。