アナログシンセの VCO ブロック (60) -- マルチ出力アンチログ回路の測定 (9)

今回は、現在実装されている 2 つの VCO 間の「混変調」というか「クロストーク」というか、VCO 間相互の影響について調べてみました。 結果としては、問題になるレベルではありませんでした。
トランジスタ・アレイ TD62507 では、16 ピン・パッケージの中に NPN トランジスタが 5 素子集積されており、それらの E/B/C 端子はそれぞれ独立して引き出されています。
一方、今回使っている TD62501 では 16 ピン・パッケージの中に NPN トランジスタが 7 素子集積されていますが、エミッタ端子が共通に接続されていて、コモン・エミッタ端子のピンひとつにまとめられています。
このコモン・エミッタの配線部分の共通インピーダンスによる電圧降下が各素子のベース・エミッタ間の電位に影響を与えます。
また、ふたつの Vbe を生成している部分では、十分に低い周波数の外乱に対しては OP アンプを使ったクローズド・ループが応答して誤差をなくす方向に働きますが、周波数の高い外乱成分 (約 16 Hz 以上) に対しては、1 次パッシブ LPF による低減効果のみとなります。
この 2 つの原因により複数の VCO 間で相互に影響を与えます。
今回は、

  • ひとつの VCO (リセット型) では MIDI ノート番号 69 (440 Hz) を連続して発振させ続け、

外乱としては、もうひとつの VCO (リワインド型) で

  • MIDI ノート番号 16 (約 20.6 Hz) (PWM duty 約 12.5 %) と
  • MIDI ノート番号 112 (約 5.27 kHz) (PWM duty 約 87.5 %) とを
  • 約 16 ms 周期 (約 61 Hz) で交互に発振させ、

440 Hz の VCO 出力を PC のオーディオ・インターフェースに接続し、「WaveSpectra」で FFT 解析して周波数の変動を観測しました。
外乱側のリワインド型 VCO の波形を下に示します。

これは WaveSpectra の Wave 画面をキャプチャしたもので、PC のオーディオ・インターフェース部で極性が反転しているため、実際の波形とは上下逆の表示になっています。
440 Hz を発振している VCO 出力波形を Hamming 窓で FFT 解析した結果を下に示します。

横軸はリニア表示で 300 Hz から 600 Hz までを示しています。
VCO の発振周波数は、実際は 443.1 Hz で、縦の破線で示されるカーソルがある部分が外乱によって生じたピークで、周波数は 504.6 Hz と読み取れます。
その周波数差は、
504.6 - 443.1 = 61.5 [Hz]
で、外乱によるピークに間違いありません。
レベル差は、
-71.19 - (-12.64) = -58.55 [dB]
となり、問題のないレベルです。
ちなみに、外乱側の VCO を MIDI ノート番号 112 (約 5.27 kHz) に固定し、「外乱」のない状態にした場合のスペクトラムを下に示します。
当然、外乱によるピークはありません。