PIN フォトダイオードによるガンマ線検出回路 (10)

「PRA」(Pulse Recorder and Analyser) を使って、「やさしお」を実際に測定して得たパルス高ヒストグラムから、gnuplot によりグラフをプロットしたものを下に示します。
PRA のデフォルトでの最大測定時間 89478 秒 (約 25 時間) かけて 342 個のパルスを記録したものです。 (平均で 0.229 CPM)
K-40 からは 1.461 MeV のガンマ線が放出されていますが、シリコン・フォト・ダイオードでは、1.461 MeV のガンマ線を直接検出するのは無理があります。
電子対生成で生じた 511 keV の消滅光子が 2 個とも検出器の外へ逃げた、いわゆる「ダブル・エスケープ」のピークしか見ることができないと思われます。

K-40 の 1.461 MeV のガンマ線のダブル・エスケープ・ピークは、

1460.8 - 2 * 511.0 = 438.8 [keV]

となり、また、そのコンプトン・エッジのエネルギーは、

438.8 - 161.5 = 277.3 [keV]

となり、上の図で、それらしい位置にピークが見えています。
図中の矢印は、正確なエネルギー値の位置を示しています。
図中の「2 ESC」は「ダブル・エスケープ」、「CE」は「コンプトン・エッジ」を表しています。
このグラフは、階級幅を 0.1 任意単位として、0 〜 100 任意単位までを 1000 分割したヒストグラムを求めたうえで、半値幅 W = 1.6 任意単位となる「ガウス関数」、つまり正規分布確率密度関数の形状の「FIR フィルタ」で平滑化したものです。
「計算」によりピーク位置を検出する方法のひとつに「微分」を使うものがあり、「ガウス型平滑化 2 次微分フィルタ」を使った結果のグラフを下に示します。

この方法は、まず、ガウス関数ヒストグラムを平滑化したあとに、微分を 2 回適用した値を求めます。 (上の図の赤い線)
実際には、ガウス関数自体を 2 回微分した FIR フィルタ係数を、あらかじめ求めておき、ヒストグラムの値にその FIR フィルタを 1 回作用させるだけで求めており、わざわざ平滑化および微分という 2 回に分けた操作は行いません。
「上に凸」のピークの場合、1 回微分すると、ピーク手前の上昇部では微分値は正になり、ピークの頂上ではゼロ、ピークを過ぎて下降している部分では微分値は負になります。
それをもう 1 回微分すると、ピーク直前では下降し、ピークの頂上では負、ピーク直後では上昇する値になります。
これとは別に、2 回微分値の標準偏差を求めて係数を掛けマイナスの値にしたものを計算しておきます。 (図の青い線)
そして両者を比較し、平滑化 2 次微分値が、標準偏差に係数を掛けた値よりも小さい部分をピークと判定します。
正式な (ちゃんとした) 測定では、標準偏差に掛ける係数は 3 程度、つまり 3 シグマ程度でピーク判定しますが、ここでの結果は精度が低く、3 シグマだと、ほとんどピークが検出されなくなってしまうので、1.3 シグマという低い値に設定してあります。
フィルタの具体的な計算方法については、

文部科学省 放射能測定法シリーズ No.7
ゲルマニウム半導体検出器によるガンマ線スペクトロメトリー」
平成 4年 8月(3訂)

の「第 9 章スペクトル解析」の 118 ページ以降に記述があります。
上の文献は、紙に印刷された冊子は有料ですが、pdf ファイルであれば、「財団法人 日本分析センター」の web サイト

http://www.jcac.or.jp/series.html

から無償でダウンロードできます。
バックグラウンドを、PRA のデフォルトでの最大測定時間 89478 秒 (約 25 時間) かけて 269 個のパルスを記録した結果を下に示します。 (平均で 0.180 CPM)


Pb-212 (238.6 keV)、Ac-228 (338.3 keV のコンプトン・エッジの 192.7 keV) らしきものが見えています。 その他は、よく分かりません。
「トリウム・レンズ」を約 4 時間かけて測定したものを下に示します。 (パルス数 2500)


トリウムの崩壊系列で強度が大きい Pb-212 (238.6 keV)、Ac-228 (338.3 keV)、Tl-208 (583.2 keV) の位置を表示しておきましたが、あまり合っていません。