Gilbert Sine Shaper (12)

MOS FET で、しきい値電圧 V_{\mathrm\fs1 TH} を超えるゲート・ソース間電圧 V_{\mathrm\fs1 GS} をかけて、強反転領域かつ、ドレイン電圧が十分高くて飽和領域にある場合、ドレイン電流は模式的には次のように表されます。
\qqua\qquad I_{\mathrm\fs1 D} = A \cdot (V_{\mathrm\fs1 GS} - V_{\mathrm\fs1 TH})^2
このような MOS FET で差動ペアを構成すると、その差動出力電流と差動電圧入力との関係は次のようになります。
\qquad\qquad g(x) = \begin{cases}\;\mathrm{sgn}(x)  &[ \;| x |\, \ge \, \sqrt{2}\; ] \\ \vspace{10pt} \\ \; x \sqrt{1 - x^2/4}\qquad\qquad&[ \;| x | \,\lt\, \sqrt{2} \;]\end{cases}
ここで、\mathrm sgn(x) は x > 0 の時 +1、x < 0 の時 -1 を取る関数とします。
上の式の場合分けの上側の条件は、差動ペアの片方の FET が「サブスレッショルド領域」になる条件で、簡単のため、その FET は完全にカットオフし、反対側の FET に電流が 100 % 流れるものとしています。
他の「S 字カーブ」の関数と揃えるために、上の式は、x = 0 で傾きが 1 になるように選んであります。
この g(x) のフーリエ変換に関しては、直接適用できるような公式が見つからないので、今回は高調波の振幅の理論式は求められませんでした。
プログラムで計算した結果のグラフを下に示します。

高調波のレベルは低くなく、ひずみ率は下がらず、 E/Vt = 5 で約 5 % 程度、E/Vt = 1.91 で最小値 0.6 % 程度です。
グラフが「ディップ」になっている部分は振幅が減少して「ゼロ」を通過して、振幅の符号が反転して再び増大していることを示しています。
g(x) の級数を計算して、256 点 FFT を掛ける前の「時間波形」に相当するもののグラフを下に示します。

一番振幅が大きいのが E/Vt = 5 で、E/Vt が小さくなるにしたがって振幅も小さくなっていきますが、ある点で振幅がほぼゼロになり、それよりも E/Vt が小さくなると信号の極性が反転した形で増大していくのが分かります。
E/Vt が大きい部分では、サイン波というよりも三角波に近い形になっています。