3.3 V ノイズジェネレータ (6)

前回述べたように、理想特性でもある、折れ線近似での遷移域 (-3 dB/oct スロープの直線部分) の下端の周波数と上端の周波数との比は「9」になります。
したがって、中心周波数の比を 9 に取った2つのラグ・リード・フィルタをバッファを介して従続接続すれば、低域のラグ・リードの上端の周波数と、高域のラグ・リードの下端の周波数がピタリと一致して、-3 dB/oct 特性の直線部分の幅が2倍に拡大します。
しかし、実際のラグ・リード・フィルタの周波数特性は連続的に変化しますから、2つのフィルタの境界付近の合成特性にはリプルが生じます。
後の例で示すように、中心周波数は 9 倍よりも少しせまい間隔で配置したほうが良い結果が得られるようです。
ラグ・リード・フィルタ1段で受け持つ帯域が 9 倍ということは、ラグ・リード・フィルタ3段では
\qquad\qquad 9 \,\times\, 9 \,\times\, 9 \,=\, 729
となって、必要帯域 20 Hz 〜 20 kHz の3ディケード、つまり 1000 倍には少し足りません。
これに対しては、ラグ・リード4段にして帯域の拡大を図っても良いのですが、ラグ・リード3段で低域側の帯域の特性を確保し、最高域の減衰はラグ・フィルタ1段を追加して負担させることにしました。
これはまた、20 kHz 超の帯域で減衰量が平坦となるのにとどまらず、高域に向かってさらに減衰させる機能も持っています。
ツェナー・ダイオードなどのハードウェアによって発生させたホワイトノイズは本質的に広帯域ですから、そのようなノイズ源と接続するフィルタとしては、必要帯域外では十分に減衰してくれる特性が望ましいのです。
もちろん、「ホワイトノイズ出力」として 20 kHz 超の成分を減衰させた端子からフィルタに入力する場合であれば、帯域外の減衰は必須ではありませんが、その場合はホワイトノイズのフィルタの帯域内の高域特性を考慮した上でピンクノイズ・フィルタの特性を決定する必要があります。
ここでは、入力側で帯域制限されていない場合を考えます。
3つのラグ・リード・フィルタを中心周波数の低い方から順に、「低域」、「中域」、「高域」と呼ぶことにします。 また、ラグ・フィルタは「超高域ラグ」と呼ぶことにします。
超高域ラグについては、バッファ付きの独立した段としては構成せず、周波数帯域の離れている低域ラグ・リードの段に、パッシブの状態で直接に組み合わせることにします。
LTspice シミュレーションでの回路を下に示します。

各ラグ・リードの R1、R2 の値は理論値通りとし、コンデンサの値のスケーリングのみで中心周波数の設定を変えています。
超高域ラグの R については、低域ラグ・リードの R1 を共用することとし、コンデンサ 1 個の追加でラグ・フィルタを構成しています。
低域ラグ・リードの中心角周波数を 1 [rad/s] とし、中域ラグ・リードの中心角周波数は理論値の 9 よりも少し少ない 8.8 [rad/s]、高域ラグ・リードの中心角周波数は 79 [rad/s] に選んであります。
AC 解析のシミュレーション結果のグラフを下に示します。

LTspice では AC 解析で角周波数による表示ができないので、1 [rad/s] の代わりに 1 [Hz] となるように、コンデンサの値を周波数スケーリングしてあります。
下側のグラフが各段のゲイン特性で、灰色の直線が -3 dB/oct (-10 dB/dec) の理想特性、明るい緑色の線が1段目、つまり「低域ラグ・リード」+「超高域ラグ」の特性、青色の線が「中域ラグ・リード」の特性が加わった2段目の出力特性、赤色の線が「高域ラグ・リード」の特性が加わって最終的な特性となった3段目の出力です。
上側のグラフの暗い緑の線は、-3 dB/oct (-10 dB/dec) の理想特性と全体特性との誤差のグラフです。
R1/R2 の比はいじらず、中心角周波数の調節だけを行った結果なので、等リプルの最良近似とはなっていません。 それでも p-p 値で 0.5 dB 程度のリプルとなっています。
下に示す回路は、「低域ラグ・リード」と「高域ラグ・リード」を同じ段で組み合わせ、「中域ラグ・リード」+「超高域ラグ」の段と合わせて、バッファ2段で実現したものに相当します。
シミュレーションのプロービングのためには不要な最終段のバッファは省略してありますから、回路ではバッファ (ゲイン 1 の E エレメント) は段間の1個しかありません。

当然、「低域ラグ・リード」+「高域ラグ・リード」の段では、それぞれの R、C は独立には選べません。
AC 解析のシミュレーション結果のグラフを下に示します。

下側のグラフが各段のゲイン特性で、灰色の直線が -3 dB/oct (-10 dB/dec) の理想特性、青色の線が1段目、つまり「中域ラグ・リード」+「超高域ラグ」の特性、赤色の線が「低域ラグ・リード」+「高域ラグ・リード」の特性が加わって最終的な特性となった2段目の出力特性です。
上側のグラフの暗い緑の線は、-3 dB/oct (-10 dB/dec) の理想特性と全体特性との誤差のグラフです。
こちらも、低域、中域の R1/R2 の比はいじっていないので、等リプルの最良近似とはなっていません。 それでも p-p 値で 0.5 dB 程度のリプルは実現できています。