アナログシンセの VCO ブロック (24) -- アンチログ回路(7)
OTA を乗算器的に使う方法の続きです。
特性を実現できれば、と言いましたが、それ自体は簡単なことです。
差動トランジスタ対の差動電圧入力と差動電流出力との関係が になるわけですから、入力と出力を逆にして、差動電流入力、差動電圧出力が実現できれば の関係が得られます。
左図の D2, D3 は Q4, Q5 と同一形状、同一特性のトランジスタをダイオード接続したものです。
ダイオード・バイアス端子 (2 番ピン) には一定の電流 が流れ込むものとします。
また、信号電流を として、D3, D2 には、それぞれ 、 の差動電流が流れるものとします。
この差動電流をどうやって作り出すかが問題ですが、そのことは後回しにします。
ですから、OTA の入力 は、
となります。
これを出力電流 の式に代入すれば、
となり、 が消えて、入力電流 と OTA のバイアス電流 の積に比例し、ダイオード・バイアス電流 に反比例する形になります。
ここで、Q4, Q5, D2, D3 は同一特性のトランジスタで、温度も等しいことを仮定しています。 ダイオード対を外部に設けたのでは、この仮定は成り立ちません。
をゼロ温度係数の一定電流、 を PTAT 電流にすれば、絶対温度に比例するスケーリングが実現できます。
LM13700 のデータシートでは、 は 1 mA 流すことを推奨しています。
さて、問題の差動電流の作成方法ですが、ここで、エミッタ直結の差動増幅回路を使ったのでは、せっかく消した の項が再び現れてしまいますから、エミッタ間に抵抗を接続したタイプの差動増幅回路を使います。
左図のように (A), (B) ふたつのタイプがありますが、特性はどちらも同じです。
ただし、(B) のほうは、差動入力電圧がゼロの時でも、常にエミッタ抵抗 による電圧降下が生じているので、エミッタ抵抗の値によっては、負電源電圧が不足して実現できない場合も考えられます。
IC 内部回路では (A) の回路のほうが多く使われています。 というのは、IC 内部ではカレントミラーは容易に実現できるので、定電流源が増えても負担にならないからです。
ディスリートで作成する場合は、定電流源が増えると負担ですから、(B) のほうが実現しやすいです。
この回路は、エミッタ抵抗 によりトランジスタにローカルな負帰還をかけているので、動作について解析的に厳密な解は得られません。
差動入力電圧がゼロ付近での近似的なトランスコンダクタンス の式は、
となります。
分母の の項は、トランジスタのエミッタの動抵抗に起因するもので、 [mA] で 104 Ω 程度です。
通常は、この値が無視できる程度のエミッタ抵抗 を選んで、
と近似するのが普通です。
この入力部を付け加えると、下の図のようになります。ダイオード 3 個を介して正電源とダイオード・バイアス端子を接続しているのは、カレントミラーの動作のために 程度の電圧を確保しつつ、なるべく入力電圧範囲を上のほうに広げるためです。
結局、ギルバート・セル型の4象限乗算器を半分だけ実現したような形になります。