ピタット (PTAT) 電圧源 (2)


ディスクリートトランジスタあるいはトランジスタ・アレーの場合の実際の回路例を左に示します。
Q1, Q2 は差動アンプとして動作しますが、OP アンプによりコレクタ電流の比が一定値 N になるように Q2 のベースがドライブされています。
差動ペアの共通エミッタ電流 (テイル電流) I_{\rm 0} は抵抗を使って供給していますが、特に定電流源にする必要はありません。 エミッタ電位は V_{\small{\rm BE}} ですから、 I_{\rm 0} = (V_{\rm ee} - V_{\small{\rm BE}}) / R となります。

OP アンプは、ふたつのトランジスタのコレクタ電圧が等しくなるように作用します。
Q2 のコレクタ抵抗値は R、Q1 のコレクタ抵抗はその N 倍の N・R となっていますから、Q2 には Q1 のコレクタ電流の N 倍の電流が流れます。
OP アンプ出力は R1, R2 による分圧回路で R1/(R1+R2) 倍されて Q2 のベースに供給されます。
逆に言えば、V_{\small{\rm B2}} を (R1+R2)/R1 倍した電圧が OP アンプの出力に現れていることになります。
5 V 電源のシステムで扱いやすい実用的な基準電圧の値としては 3 V 程度になると思います。
コレクタ電流比 N が 10 の設定では、常温で V_{\small{\rm B2}} は 60 mV ですから、(R1+R2)/R1 を 50 程度に選べば OP アンプ出力の電圧は 60 [mV] × 50 = 3000 [mV] となります。
絶対温度 T = {} 300.0 K で出力電圧がびったり 3.000 V になるように調整すれば、ディジタル電圧計で絶対温度が直読できることになります。 単に絶対温度に比例する電圧が必要というだけであれば、必ずしも PTAT 電圧源側で調整可能にしておく必要はなく、受け入れ側の回路で調整すれば済みます。
この分圧回路では Q2 のベース電流が誤差の原因となりますから、R1 は十分に低い値を選びます。 さらに、Q1 のベース電流による誤差をキャンセルするために R1 を N 倍した抵抗を挿入します。
具体的な例で計算すると、I_{\small{\rm C2}} = {}100 uAh_{\small{\rm FE}}={} 100、N=10、R1=100 Ω とすると、ベース電流は 1 uA となり、それによる電圧降下は 100 × 1e-6 = 0.1 [mV] で、これは温度に換算すると 0.5 K ですから、決して無視できる値ではありません。
OP アンプのフィードバック・ループ内には R1, R2 による分圧回路と Q1, Q2 による差動増幅回路が含まれるので、その定数によってはトータルのオープンループ・ゲインが増加して不安定性の原因になる可能性があります。
計算すると、オープンループ・ゲインが、OP アンプの裸のゲインの
\quad\quad \frac{V_{\rm ee} - V_{\small{\rm BE}}}{V_{\small{\rm T}}} \cdot \frac{N}{N+1} \cdot \frac{R1}{R1+R2}
倍になります。*1] と求まります。抵抗によるテイル電流  I_{\rm 0} = (V_{\rm ee} - V_{\small{\rm BE}}) / R を代入すると最終的に [tex: A_v = *2] となります。))
ここで具体的な数値例をあげると、

  • +Vcc = +5 V
  • -Vee = -5V
  • N = 10
  • R = 47 kΩ
  • NR = 470 kΩ
  • R1 = 4.7 kΩ
  • R2 = 100 Ω
  • NR1 = 1 kΩ
  • 付加ゲイン = ((5 - 0.6) / 26e-3)*(10/11)*(100/(4700+100)) = 3.2 = 10.1 [dB]

となります。 ゲインの増加分は 10 dB ほどで、場合によっては発振防止コンデンサが必要になるかも知れません。 
常温 (T = {}300 K) での出力電圧は ln(10) × 26 × 48 = 2874 [mV] となります。

*1:差動増幅回路のゲインは次のようにして求めます。差動ペアのテイル電流を I_{\rm 0} とすると、Q1, Q2 のコレクタ電流はそれぞれ、 I_{\small{\rm C1}} = I_{\rm 0} / \left { {\exp(V_{\small{\rm B2}}/V_{\small{\rm T}}) +1} \right } I_{\small{\rm C2}} = I_{\rm 0} / \left { {\exp(-V_{\small{\rm B2}}/ V_{\small{\rm T}}) +1} \right } と表されます。これを V_{\small{\rm B2}}微分して g_m を求め、 \exp(V_{\small{\rm B2}}/V_{\small{\rm T}}) = N を代入すると、 g_{m1} = -g_{m2} = (I_{\rm 0} / V_{\small{\rm T}})\cdot(N/(N+1)^2)となります。 g_m にコレクタ抵抗を掛けて差動ゲイン A_v を計算すると、[tex:A_v = N \cdot R \cdot g_{m1} - R \cdot g_{m2} = (R \cdot I_{\rm 0} / V_{\small{\rm T}}) \cdot (N/(N+1

*2:V_{\rm ee} - V_{\small{\rm BE}})/{V_{\small{\rm T}}}) \cdot (N/(N+1