アナログシンセの VCO ブロック (4) -- アンチログ回路(3)

特性の揃ったトランジスタをペアで使うことにより I_{\rm s} による非線形な温度依存性をキャンセルすることができましたが、まだ T に比例する温度依存性が残っています。
VCO ブロックへの CV 入力電圧を V_{\small{\rm CV}}とすると、アンチログ回路出力は
\quad\quad \exp ( V_{\small{\rm CV}} \cdot A / V_{\small{\rm T}})
に比例することになります。
熱電圧 V_{\small{\rm T}} = {\rm k} T / {\rm q}絶対温度に比例するのは変えようがないのですが、 A / V_{\small{\rm T}} という組み合わせで温度に依存しない定数にすることができれば、温度依存性のないアンチログ回路になります。
そのために良く使われる方法がふたつあります。

その1: 温度補償抵抗を使う (AT に比例)

何らかの手段で、スケーリング係数 A絶対温度 T に比例させる方法です。
この目的のために、絶対温度に比例して抵抗値が変化する温度補償抵抗が作られています。 
必要な温度係数を計算すると、常温 ( T = \rm 300 K) で温度が 1 K 上昇すると抵抗値が 1/300 増加するわけですから、1/300 = +3333 [ppm/K] になります。
実際の製品は、抵抗値の精度は 1 % 程度、温度係数は2桁の有効数字の精度で、この用途には +3300 [ppm/K] あるいは +3600 [ppm/K] のものが使えるようです。
基本的には特注品で、秋葉原へ行って店頭ですぐ買えるというものではありません。
昔は個人では入手が難しかったのですが、現在では温度係数 +3300 ppm/K の 1 kΩ と 10 kΩ の温度補償抵抗や、トランジスタアレー、OTA などが Yahoo オークションで入手可能です。 キーワード「Synth-DIY」で検索してみてください。

常温で、スケーリング係数  A = 18/1000 ですから、 1 kΩ の温度補償抵抗を使って抵抗分圧回路を組むと、相方の抵抗値は 1 [kΩ] × (1000 - 18) / 18 = 54.6 [kΩ] になります。

その2: 恒温槽を使う (T 一定)

温度が変化するから特性が変化するわけで、温度を一定に保てれば問題は解決です。
ペアトランジスタと、温度センサ、発熱体を熱的に良く結合するように配置し、外気温より高い一定温度を維持するように電子回路でフィードバック制御します。
後期型のミニモーグには、この機能を持つ1チップ IC で、現在は廃品種の uA726 が使われていたそうです。
現在、この機能を自作するためには、モノリシック・トランジスタ・アレイを利用して実現します。
アレイ内のトランジスタを温度センサや発熱体として利用します。
ディスクリート部品を組み合わせると熱的結合が十分ではなく、かえって余計な温度差を発生させる可能性さえあります。