ディジタル信号処理による信号発生とエイリアス(3)

今回は、宿題の1問目の、

  • 理想のこぎり波をサンプリングした場合に位相がズレない理由

の解答です。
答えは、ほとんど自明ですが、理想のこぎり波をサンプリングした場合には、ナイキスト周波数 (fs/2) 以上の成分が含まれていて、それがエイリアスとして影響を与えるからです。
したがって、ナイキスト周波数 (fs/2) 以下に帯域制限した波形を発生することができれば、位相ズレは正しく現れ、これが2問目の答えとなります。
最初に、エイリアスのために位相ズレが現れないことの定性的な説明を行います。
区間 0 \le x \le 2\pi で定義される理想のこぎり波を、フーリエ展開
\qquad\qquad \sum_{n=1}^{\infty} \frac{\sin(n x)}{n}
で表現します。(DC 成分は 0 とします)
のこぎり波の1周期を N=11 点でサンプリングします。
そうすると、ナイキスト周波数は 5.5 倍波に相当しますが、そこには周波数成分は存在しません。
ナイキスト周波数以下の高調波では 5 倍波が最高となります。 6 倍波以上の高調波はエイリアスとなって、ベースバンド帯域に出現します。
6 倍波のエイリアスは 5 倍波と同じ周波数になります。 ここで、6 倍波のエイリアスが、ベースバンド帯域での 5 倍波としては、どのように振るまうかを調べます。
位相の変数 x に、定数 d を足して x+d として、一定量だけ位相を進ませることを考えます。
そうすると、6 倍波は、
\qquad \begin{eqnarray*}\sin\left { 6(x+d) \right } & = & \sin\left { 11(x+d)-5(x+d) \right } \\ &=& \sin\left { 11x +d - 5(x-d) \right }\end{eqnarray*}
と表されます。
のこぎり波の 1 周期を N=11 点でサンプリングしますから、k を整数として、k 番目のサンプリング点を x_k とすると、
\qquad\qquad x_k = \frac{2\pi}{11}k
\qquad\qquad 11 \cdot x_k = 2\pi k
となります。 これを前の 6 倍波の式に代入すると、
\qquad \begin{eqnarray*}\sin\left { 6(x_k + d) \right } &=&\sin\left { 2\pi k +d - 5(x_k-d) \right } \\&=&\sin\left { d - 5(x_k-d) \right }\end{eqnarray*}
となります。
これを見ると、右辺の \sin 関数の引数の第一項の d を無視すると、おおよそ、
\qquad\qquad \sin\left { 6(x_k + d) \right } \approx \sin\left { -5(x_k-d) \right }
と考えることができます。
これは、6 倍波のエイリアスは、ベースバンド帯域では、負周波数の 5 倍波のように振るまい、のこぎり波全体の位相シフトと反対の方向にシフトすることが分かります。
位相シフト量が +d という正の値、つまり、のこぎり波形を左にシフトする状態の時、本来の 5 倍波は左にシフトしますが、6 倍波のエイリアスの 5 倍波は右にシフトする形になります。
5 倍波のスケーリングは 1/5 で、6 倍波のスケーリングは 1/6 ですから、完全には打ち消し合わずに、2割程度の残差が生じますが、おおざっぱに見れば、左シフトの 5 倍波と、右シフトの 5 倍波が合わさって、変化をキャンセルすることになります。
ふたつの周波数成分しか考慮していないので不十分ですが、これがエイリアスが原因で位相ズレが生じないことの定性的な説明です。
宿題の2問目の答えである、帯域制限された波形を発生させる方法については、次回以降に説明します。