4 次 VCF CEM3320/V3320 (17) --- 4 次 APF (1)

 「4 次 APF」と言った場合にその特性に期待されるのは、

  • 振幅特性については、多少のデコボコはあるにせよ「オールパス」らしく全体的にはフラットで
  • 位相特性については、0° から 720° まで滑らかに推移し、レゾナンス・コントロールにより大幅に傾きが変化する

ことですが、CEM3320 / V3320 の場合には、そうはなりません。
 1 次フィルタを縦続接続し、フィードバックを掛けて特性を得るタイプのフィルタでは、フィードバック極性と位相の回りで実質的に「正帰還」になる周波数領域でのゲインが増大し、実質的に「負帰還」になる周波数領域でのゲインが減少します。 一方、位相特性については大きくは変化しません。
 期待通りの特性が欲しい場合には、状態変数回路などの 2 次 APF 回路を 2 段縦続接続して構成するのが実用的と思われますが、一応ここでは 4 次 APF の特性を見ておきます。
 「正しいフィードバック」の 4 次 APF 回路の、信号に注目したブロック・ダイアグラムを下に示します。

 下図のような一般的なシステムを考えると、


 その伝達関数 F(s) は、

 \qquad\qquad\displaystyle  F(s) = \frac{Y(s)}{X(s)} = \frac{B(s)}{(1/G(s)) - A(s)}

と表されます。
 「正しいフィードバック」の回路では、

\qquad\qquad\displaystyle \left\{ \begin{eqnarray} B(s) &=& 1 \\ G(s) &=& \left( \frac{s-1}{s+1}\right)^4 \\ A(s) &=& -A \end{eqnarray} \right.

ですから、これらを代入すると、伝達関数 F(s) は、

 \quad\displaystyle  F(s) = \frac{B(s)}{(1/G(s)) - A(s)} = \frac{1}{\frac{(s+1)^4}{(s-1)^4} +A} = \frac{(s-1)^4}{(s+1)^4 +  A\cdot(s-1)^4}

と求められます。 
 フィードバック・ゲインである A を -0.9 から 0.9 まで変化させながら振幅の周波数特性をプロットすると、


のようになります。 
 ここで、フィードバック・ゲイン A の値が負の場合は、フィードバックが「正帰還」になることを示しています。
 フィードバック・ゲインの絶対値が 0.9 の場合、ピーク・ゲインが +20 dB に達するほど大きくなり、完全にフラットになるのは A = 0.0 、つまり、フィードバック量がゼロで 1 次 APF の 4 段重ねの裸の特性がそのまま出る場合しかありません。
 位相の周波数特性のプロットを下に示します。


 4 次 APF では、位相が 0° から 720° まで回るのに対し、グラフでは ±180° までしか表現できないので、途中で -180° から 180° までのジャンプが 2 回生じていて見にくくなっています。
 位相が -180°、-360°、-540° の点が「ピン止め」されていて、フィードバック・ゲイン A の値によらず変化しません。 位相特性が変化できるのはピン止めされた点の間だけなので、小幅なものにとどまっています。
 この「正しいフィードバック」構成の回路の LTspice シミュレーション記述を下に示します。


 FCIN = 70.9mV としてカットオフ周波数を固定し、フィードバック・ゲイン A を -0.9 から 0.9 までステッピングさせてシミュレーションしています。
 AC 解析の結果の振幅特性 (上側) と位相特性 (下側) のグラフを下に示します。


 フィードバック・ゲイン A と、トレースの色との対応表を示します。

 A トレースの色
-0.9
-0.5
 0.0
 0.5 マゼンタ
 0.9 シアン

 LTspice の機能で、360° を超える範囲も連続的にプロットされているので、位相特性が見やすくなっています。
 位相が -180°、-360°、-540° の点が「ピン止め」されていて、位相特性が大きく変化できなくなっているのが分かります。