3.3 V ノイズジェネレータ (10)

今回は、ホワイトノイズ出力およびピンクノイズ出力のパワーに関する話題です。
まず、フーリエ変換における「パーセバル (Parseval) の式」を示します。
\qquad\qquad \int_{\small \;-\infty}^{\small \qquad\qquad\qquad \infty} \left| \,x(t) \,\right|^2 dt = \int_{\small \;-\infty}^{\small \qquad\qquad\qquad \infty} \left| \,X(f) \,\right|^2 df
ここで、x(t)X(f) は、互いにフーリエ変換/逆変換の対で、具体的に言えば x(t) は時間ドメインでの「波形」で、X(f) は周波数ドメインでの「スペクトル (密度)」です。
また、フーリエ変換の定義の流儀の違い、および周波数ドメインで角周波数を使うか、周波数を使うかの違いによって、式に 1/(2\,\pi) のような係数が現れることがありますが、定数をかけるだけなので本質には関係なく、ここでは係数のかからない表現にしてあります。
この式の意味をごく簡単に言うと、時間領域で計算したパワーの値 (左辺) と、周波数領域で計算したパワーの値 (右辺) は一致するということです。*1
ここで対象としている信号はランダム・ノイズなので、具体的な「時間波形」から左辺の計算をすることは困難です。
もちろん、物理的なランダム・ノイズではなく、「擬似」ランダム・ノイズの m-系列をソフトウェア的に発生させているので、プログラムで擬似ランダム系列を発生させながら、計算上でフィルタを作用させ、パワーを計算していくことはできますが、手軽にはできません。
また、x(t) を「確率変数」として、確率分布から計算する方法もありますが、フィルタを作用させた場合の分布のパラメータの変化が明確ではありませんから、これも計算は容易ではありません。
一方、周波数領域での計算は、たとえばホワイトノイズの場合、その定義として「すべての周波数で強度が等しい」ことから、\left|\, X(f)\,\right| = 1 のように置くことができ、パワーの計算は容易です。
そこで、周波数領域での計算から、ホワイトノイズ出力のパワーと、ピンクノイズ出力のパワーとが等しくなる条件を求めてみます。
まず、計算の対象となる周波数帯域の下限の周波数を f_1、上限の周波数を f_2 とします。
ホワイトノイズ出力の (合計の) パワーを P_{\rm w}パワースペクトル (密度) を S_{\rm w} (f)\,=\, 1 として、
\qquad\qquad P_{\rm w} = \int_{\small \;  f_1}^{\small \qquad\qquad\qquad f_2} S_{\rm w}(f)\,  df = \int_{\small\; f_1}^{\small \qquad\qquad\qquad f_2} df = \left[ f \right]_{\small f_1}^{\small f_2} = f_2 - f_1
となります。
ピンクノイズ・フィルタは、ゲイン特性は -3 dB/oct (-10 dB/dec) で変化しており、これはゲインが周波数の平方根に反比例する形となります。
したがって、ピンクノイズ出力のパワースペクトル (密度) を S_{\rm p} (f) とすると、ゲインを 2 乗すればよく、
\qquad\qquad S_{\rm p} (f) = \frac{\,f_0\,}{(\sqrt{\,f\,})^2} = \frac{\,f_0\,}{f}
のように表せます。
ここで、f_0 は比例定数で、具体的には、ピンクノイズ・フィルタのゲインが「1」(0 dB) となる周波数を表現しています。
ピンクノイズ出力の (合計の) パワー P_{\rm p} は、
\qquad\qquad \begin{eqnarray} P_{\rm p} &=& \int_{\small \;  f_1}^{\small \qquad\qquad\qquad f_2} S_{\rm p}(f)\, df = \int_{\small \;  f_1}^{\small \qquad\qquad\qquad f_2}\frac{\,f_0\,}{\,f\,} \, df = \left[ f_0 \cdot \,\ln(f) \right]_{\small f_1}^{\small f_2} \\ &\; & \\ &=& f_0 \, \left( \ln(f_2) - \ln(f_1) \right)\end{eqnarray}
となります。 ここで、\ln(\cdot) は自然対数 \log_{\small e} (\cdot) を表しています。
ホワイトノイズ出力のパワーと、ピンクノイズ出力のパワーとが等しくなる条件は、P_{\rm w} = P_{\rm p} と置けば求まりますから、
\qquad\qquad \begin{eqnarray} P_{\rm w} &=& P_{\rm p} \\ &\;&\\ f_2 - f_1 &=& f_0 \, \left( \ln(f_2) - \ln(f_1) \right)\\ &\;&\\ f_0 &=& \frac{ f_2 - f_1 }{\ln(f_2) - \ln(f_1) }\end{eqnarray}
となり、比例定数 f_0 の値が求まりました。
ここからは、実際の値を入れて、具体的な数値を計算します。
まず、計算の対象となる周波数帯域はピンクノイズ・フィルタが -3 dB/oct (-10 dB/dec) 特性となる範囲に合わせ、 10 Hz 〜 20 kHz とします。
したがって、f_1 = 10f_2 = 20e3 を代入すれば、
\qquad\qquad f_0 = \frac{20e3 - 10}{\ln(20e3) - \ln(10)} \,=\, 2629.95\ldots \qquad[\rm Hz]
となり、約 2.6 kHz でピンクノイズ・フィルタのゲインが 0 dB になるように調節すれば、ホワイトノイズ出力のパワーと、ピンクノイズ出力のパワーが等しくなります。
もちろん、これは、ノイズ出力の出力電圧範囲を有効に活かして、どちらかのノイズ出力が電気的に不利な状態になるのを避けるためです。
聴感上の音の大きさを等しくすることや、実使用上で使い勝手の良いレベル配分を目指したものではありません。

*1:実際にはこの式は「エネルギー」に対する式ですが、「エネルギー/時間」の次元を持つ「パワー」についても同様な式が成り立ちます。