SH-2A 基板 (7)
SH7262 の SPDIF モジュールのコントロールレジスタ (CTRL) では、ビット 31 〜 29 および 27 はリザーブビットとなっており、書き込む値は常に「0」にするように指示されています。
デバッガで FM 音源プログラムをダウンロード、実行した後、実行を中断し、デバッガの I/O ポート操作機能を使ってこれらのリザーブビットに値を書き込んでみても、オーディオ・クロックの分周比に変化はありませんでした。
したがって、現在のところ、SPDIF モジュールでオーバーサンプリング・クロックを 512 fs 以外の状態にセットする方法は不明です。
一方、CQ 出版の Interface 誌の「2010 年 6 月号付属 SH-2A 基板特設ページ」の 5 月 6 日更新の「若松通商から発売の追加部品セットについて」の記事では、下のような記述があります。
6月号p.72の表Aに掲載されている追加部品一覧では、ディジタル・オーディオ用クロックX4として11.2896MHzまたは12.288MHzの水晶発振子が掲載されています。しかし現在、若松通商から発売中の追加部品セット(http<略>)にはこれが含まれておらず、かわりにUSBミニBケーブルが追加されています。
6月号p.78の回路図にもあるように、当初は11.2896MHzまたは12.288MHzの水晶を実装する予定でした。しかしディジタル・オーディオでは、必要とするサンプリング周波数別(32k/44.1k/48k)に、さらにオーバ・サンプリングの設定によって必要とする周波数が変わってきます。そのため、周波数を絞ることができないという理由から、ディジタル・オーディオ用の水晶発振子を追加部品セットに盛り込むことをやめました。<後略>
若松通商から発売の追加部品セットについて|Interface編集部ブログ
その結果、「追加部品セット」1,250 円と、「SPDIF 拡張基板キット-A」4,600 円との、合計金額 5,850 円を支出して購入しても、どちらにもオーディオ・クロック用の水晶振動子は含まれないことになります。
秋葉原へ直接買出しに行ったり、通販で注文した後にこの事実に気が付くと、手持ちがなければ、水晶振動子を追加購入する必要が生じ、2 度手間になります。
上で引用した、「サンプリング周波数およびオーバーサンプリング比によって必要な周波数が変わる」というのは事実ですが、その目安を CQ 出版側が示すのではなく、読者が「勝手」に調べて「勝手」に買えということなのでしょうか。
「SPDIF 拡張基板キット」を購入する人が SPDIF を使えなくていいと考えるはずはありませんから、SPDIF モジュールが必要とする周波数を探すはずですが、はたして、ハードウェアマニュアルを正しく読み解いて、「正しい」周波数の水晶振動子にたどりつけるかどうか心配です。
回路図に 12.288 MHz、11.2896 MHz と書いてあるので、もし 12.288 MHz を購入してしまったら、今度は 3 度手間となってしまいます。
そんなわけで、代表的なオーバーサンプリング比に対するオーディオ・クロックの周波数を「勝手」に表にしてみました。
周波数 (MHz) |
倍率 | fs (kHz) |
SSIF | SPDIF | AUDIO_X1 | |
---|---|---|---|---|---|---|
2.048 | 64 | 32 | 1/1 | x | x | |
2.8224 | 64 | 44.1 | 1/1 | x | x | |
3.072 | 64 | 48 | 1/1 | x | x | |
4.096 | 128 | 32 | 1/2 | x | x | |
5.6448 | 128 | 44.1 | 1/2 | x | x | |
6.144 | 128 | 48 | 1/2 | x | x | |
6.144 | 192 | 32 | x | x | x | |
8.4672 | 192 | 44.1 | x | x | x | |
9.216 | 192 | 48 | x | x | x | |
8.192 | 256 | 32 | 1/4 | x | x | |
11.2896 | 256 | 44.1 | 1/4 | x | o | |
12.288 | 256 | 48 | 1/4 | x | o | |
12.288 | 384 | 32 | 1/6 | x | o | |
16.9344 | 384 | 44.1 | 1/6 | x | o | |
18.432 | 384 | 48 | 1/6 | x | o | |
16.384 | 512 | 32 | 1/8 | o | o | |
22.5792 | 512 | 44.1 | 1/8 | o | o | |
24.576 | 512 | 48 | 1/8 | o | o | |
24.576 | 768 | 32 | 1/12 | x | o |
「SSIF」のカラムは、シリアルクロックが 64 fs、つまり、1 チャンネルあたり 32 クロック (パディング 16 ビット + データ 16 ビット) の設定にした場合の、SSIF でのオーディオ・クロックの分周比の設定を表します。
「1/3」の分周比の設定はないので、それに相当する周波数に対しては「x」で示してあります。
「SPDIF」のカラムは、SPDIF モジュールで使用可能かどうかを示しています。 現状では、512 fs 以外の設定で動作させる方法は見つかっていません。
「AUDIO_X1」のカラムは、SH7262 の水晶発振回路に水晶振動子を接続して発振可能な周波数かどうかを示しています。 スペック上では、10 〜 25 MHz の範囲で発振可能です。
AUDIO_CLK 入力に外部からクロックを加える場合には、1 〜 25 MHz の範囲となります。
この表を見れば分かる通り、
- fs = 32 kHz に対しては 16.384 MHz
- fs = 44.1 kHz に対しては 22.5792 MHz
- fs = 48 kHz に対しては 24.576 MHz
を選べば、SPDIF でも SSIF でも問題なく利用できますから、追加部品セットには 48 kHz 用の 24.576 MHz、あるいは 44.1 kHz 用の 22.5792 MHz の水晶振動子を付属させ、32 kHz サンプリングが必要な人は自分で 16.384 MHz を調達するという形にすれば何の問題もないと思うのですが、なぜそうなっていないのか、不思議です。