MS-20 タイプの VCF (6)

今回は、ミューティング用トランジスタとベース結合アンチログを組み合わせて MS-20 前期型 VCF 回路を構成し、SPICE シミュレーションの実行、および実際に回路の作成をしてみました。
まだ回路定数のチューニングが必要ですが、作成した回路を下に示します。

5 V 〜 3.3 V 程度の単一電源とし、アナログコモン電圧を生成せず、単一電源のグラウンドを信号のグラウンドとする構成にしました。
そのため、N チャネル J-FET の 2SK30-GR を使ってレベルシフトして、OP アンプのプラス入力の DC レベルを 1 V 〜 1.5 V 程度にしています。 2SK30 のソース抵抗の 3.6 kΩ は、DC レベルがこの程度になるように、デバイスの個体差に応じて調整する必要があります。
回路としては、Timothy E. Stinchcombe さんの論文「A Study of the Korg MS10 & MS20 Filters」の Figure 1 にほぼ沿っており、

点が違っています。
SPICE の AC 解析用のモデル回路を、LTspice 用の回路図で下に示します。

AC 解析用なので、ダイオードクリッピング回路や、コンデンサによる直流カットのための回路などは省略してあります。
また、パスバンドでのゲインを 0 dB とするために、信号入力の分圧比を、アンプ部のゲインと釣り合うように変更しています。
シミュレーション結果のグラフを下に示します。

オクターブ・ステップで、ゲインのピーク位置が 20 Hz 〜 20 kHz になるように調整してありますが、数 kHz 以上でピーク位置どうしの間隔が詰まってきて、20 kHz にあるべきピークが 20 kHz に乗っていないことがわかります。
これは、アンチログ回路の特性もありますが、最も大きな原因は、オリジナル回路に比べて全体的にインピーダンスが低く、高域ではトランジスタの ON 抵抗が数 100 Ω 〜 数 10 Ω の程度になり、入力信号の分圧およびフィードバック信号の分圧回路のインピーダンス 47 Ω が無視できず誤差になるためです。
これは回路シミュレーションなので、47 Ω を 4.7 Ω や 0.47 Ω になるように分圧回路全体の抵抗値を下げてシミュレーションすると、グラフで見る程度の精度では、きれいに所定の位置に乗るようになります。
実際の回路では、コンデンサの値が 104 (0.1 μF) と 473 (0.047 μF) ですが、これは両方 104 だとレゾナンス最大にしても発振しなかったためで、本来は、このシミュレーション回路のように両方のコンデンサが同じ値になる方が「正しい」のです。
次回は、実際に組んだ回路で周波数特性を実測します。