Gilbert Sine Shaper (2)
しばらく Gilbert Sine Shaper 自体の話が続き、SSM2164 の回路の話からは離れるので、記事のカテゴリを独立させました。
文献 *1 では、下のような式が示されています。
tanh(・) を 5 項で打ち切った式なので近似式であることは自明ですが、理論的に無限個の項の和を取った場合、ある特別な「」の値を選ぶと誤差ゼロになって厳密な等式となるのかどうか、Gilbert の原論文を見ていないので分かりません。
tanh 関数の級数が sin 関数に結びつくという、この式の導出を試み、一応それらしい結果が得られました。
を Poisson (ポアソン) の和公式を使って変形していった結果だけを示すと、
となりました。
偶数次の成分は存在せず、基本波、3倍波、5倍波、... の奇数次の成分だけが現れます。
もとの回路の式の「」、上の式の「」を小さくしていくと、基本波に対する高調波成分の割合が下がっていって、ひずみ率が小さくなりますが、同時に基本波の振幅も下がっていきます。
前述の疑問に対しては、無限個の項の和を取っても、これはあくまで近似式であって、厳密に等しくなることはなく、特定の「」は存在しないというのが回答になります。
まだ詳しく解析はしていませんが、おおざっぱに言って、高調波ひずみ率を3倍波と基本波の振幅比として近似すると、
- E/Vt = 3.7 でひずみ率 0.5 %
- E/Vt = 2.9 でひずみ率 0.1 %
- E/Vt = 2.2 でひずみ率 0.01 %
の程度になります。 もちろん、実際の回路で低ひずみ率を得ようとすると、tanh 関数の項数を多くしなければなりません。
途中の詳しい計算は後述します。
もちろん、すべて自力でできるはずもなく、
森口繁一・宇田川「金圭」久 (「金圭」は「金」へんに「圭」)・一松 信 著
「岩波 数学公式」、岩波書店
I 巻 微分積分・平面曲線 (ISBN:4000055070)
II 巻 級数・フーリエ解析 (ISBN:4000055089)
III 巻 特殊函数 (ISBN:4000055097)
を利用しました。
引用した公式が記載されている場所は、「II 巻、§53、pp.278」のようにして示します。
結局、求めたい式は のフーリエ級数ですから、tanh 関数の級数のフーリエ展開の公式があれば、それを利用すればいいことになります。
岩波の数学公式では tanh 関数のフーリエ展開の公式は記載されておらず、一番近いのが、II 巻、§47、pp.248 の
のフーリエ展開が
となるものでした。