XR2206 (4)

いろいろ考えた末、三角波から正弦波へ変換する回路として

  • 調整後の歪率が 0.5% 程度
  • 正弦波の振幅が三角波よりも小さくなる

という特徴を持つ方式にたどり着くことができました。
はたして、これが実際に XR2206 で使われているかどうかは分かりませんが、数式で書けば、
\qquad \qquad \tanh(a\cdot x) - b \cdot x
で正弦波を近似する方法です。
b \cdot x三角波をリニアに増幅したものであり、\tanh(a \cdot x) は (エミッタ直結の) 差動増幅回路の特性そのものです。
前回の三角波モードの場合の簡略化した回路図に、この式を実現する部分を追加した回路を下に示します。

前回の回路に Q47、Q48、R48、R49 とテイル電流の定電流回路を追加したものです。
詳しい説明は後に回しますが、

  • エミッタ直結の Q47、Q48 により \tanh(\cdot) 特性を実現

  • 差動入力電圧のスケーリング (上式の a に相当) を R48、R49 による抵抗分圧で実現

  • 定電流源の電流比で上式の b のスケーリングを実現

  • Q47、Q48 のコレクタをクロス接続して引き算を実現

したものです。 引き算をするため、正弦波の振幅は、もとの三角波の振幅より小さくなります。
もうひとつの特徴である、500 Ω 程度の抵抗をつなぐと正弦波モードになると言う点については、回路の実現方法により変わるので、何とも言えません。
LTSpice による回路シミュレーションのための回路図はこちら (→) です。
シミュレーション結果のグラフを下に示します。

一番下のグラフが正弦波出力で、真ん中のグラフの青い線が \tanh(\cdot) を作り出している Q48 のコレクタ電流で、緑の線が、もともとある三角波の Q45 のコレクタ電流です。
LTSpice の機能の .four コマンドで歪率を求めることができ、その出力は、

Fourier components of V(vout)
DC component:7.96433e-007

Harmonic	Frequency	Normalized
 Number 	  [Hz]   	Component
    1   	1.000e+03	1.000e+00
    2   	2.000e+03	3.272e-05
    3   	3.000e+03	1.959e-03
    4   	4.000e+03	1.117e-05
    5   	5.000e+03	4.482e-03
    6   	6.000e+03	7.316e-06
    7   	7.000e+03	2.589e-03
    8   	8.000e+03	5.443e-06
    9   	9.000e+03	1.650e-03
Total Harmonic Distortion: 0.577561%

となり、0.5% 台の歪率が得られています。
正弦波変換回路についてググっていたら、「Gilbert sine shaper」というキーワードを見つけました。
あの「ギルバート・セル」のバリー・ギルバート氏の 1977 年の論文 "Circuits for the Precise Synthesis of the Sine Function" で提案されている方式のようですが、その論文そのものは、やはり有償でないと読めないようです。
この論文について言及している論文*1 については、pdf ファイルが存在して内容が読めたので、「Gilbert sine shaper」の概要について知ることはできました。
それから判断すると、ここで示した方式は「Gilbert sine shaper」の方法の特殊な場合と解釈することができると思います。

*1:dos Reis Filho, C.A. Pessatti, M.P. Cajueiro, J.P.C.:
"Analog Triangular-to-Sine Converter Using Lateral-pnp Transistors in CMOS Process",
Sch. of Electr. & Comput. Eng., State Univ. of Campinas, Sao Paulo, Brazil