SX-150 の VCO の温度補償 (14) -- その他の補償 (2)

「エミッタ電流のセンス」の例として、Minimoog 前期型のアンチログ回路を取り上げます。
この回路は一般的な、エミッタを結合したペア・トランジスタによるアンチログ回路です。 この回路形式は、単電源動作でも十分実現できることを示します。
その前に、アンチログ回路の代表的な例として、Doepfer A-110 VCO の回路を下に示します。

CV 入力のサミング・アンプ部は省略してあります。
OP アンプ周りの接続を確認すると、OP アンプのプラス入力はグラウンドに接続され、マイナス入力はペアの左側のトランジスタのコレクタに接続され、OP アンプ出力は抵抗を介して共通エミッタに接続されています。
回路動作としては、OP アンプのマイナス入力側がバーチャル・グラウンドとなるようにフィードバックが働きますから、コレクタ負荷抵抗の R13 の下端が 0 V になるように共通エミッタがドライブされます。
R13 での電圧降下が 12 V になるように作用しますから、左側のトランジスタのコレクタ電流は 12 uA の一定値になるようにコントロールされます。
CV 入力により左側のトランジスタのベース電位は変化しますが、その場合にもコレクタ電流が一定になるようにフィードバックされ、結果としてエミッタが共通に接続されている右側のトランジスタの Vbe が変化して出力電流が変化することになります。
ここで、OP アンプ出力と共通エミッタとの間の抵抗 R15 には次のような機能があります。

  1. 電圧 - 電流変換
  2. ループゲインを下げる
  3. 電流制限

1. と 2. は関連しています。
いま、仮に、共通エミッタを直接 OP アンプでドライブすると、Vbe - Ic の指数特性が直接に現れてくることになります。
Vbe の変化する範囲は大きめに見積もっても約 0.5 〜 1.0 V 程度であり、1 V 以下の変化に対して、コレクタ側では 12 V の変化となるので、フィードバックループ内にゲインの高い部分が存在することになり、不安定の原因にもなります。
この共通エミッタ電位があまり変化しないことを利用し、抵抗で電圧 - 電流変換ををさせることにより、OP アンプの出力振幅を拡大しゲインを下げ、非線形性を取り除きます。
この回路の例では R15 = 100 kΩ ですから、Vbe が 0.7 V 程度とすると、

  • OP アンプ出力が -0.7 V で (0.7 - 0.7) / 100 kΩ = 0 μA
  • OP アンプ出力が -12 V で (12 - 0.7) / 100 kΩ = 113 μA

となります。
±12 V 電源での OP アンプ出力は -12 V 以下になることはありませんから、上で示した 113 μA という数値はトランジスタ・ペアに流れる電流の最大値ということになります。
これが先のリストの 3. の電流制限機能で、抵抗値を適切に選ぶことにより、回路動作にトラブルが生じた場合でも、トランジスタが過電流で破壊されるのを防ぎます。
さらに詳しく言うと、NPN トランジスタの B-E 間の逆耐圧 V_{\rm EBO} は数 V 程度のものが多いので、回路トラブルで OP アンプ出力が +12 V に振れっ放しになると、ちょっと困ったことになります。
その対策として、この回路では付いていませんが、OP アンプ出力にダイオードを接続して、プラス側に振れるのをクランプする回路例もあります。
この正負両電源方式では一般的な回路を、そのまま単電源方式で使おうとすると使いづらい部分があります。
長くなってきたので、本題の Minimoog の回路については、次回以降の記事にまわします。